斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第45回 Devics『Push the Heart』

声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Kenta Aminaka / hair&make: Chihiro Ujikawa / text: Soma Saito

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Devics『Push the Heart』

『Push the Heart』を顔の前に持つ斉藤壮馬

今でこそサブスクやSNSで新しい音楽に触れることが容易になったが、ゼロ年代はちょうどそういった便利な手段が生まれつつあるタイミングで、各々が各々のやり方でディグる(掘り下げて探す)時代だった。

ぼくにもいくつかよく覗く音楽サイトがあって、そこで紹介されていたのがDevicsを知ったきっかけだったと思う。

ちなみにそのサイトで知ったアーティストは他にも何組かいて、機会があればこの連載で語ることがあるかもしれない。

『Push the Heart』は、LA出身の男女ユニットによる4thアルバムである。

フォーキーであたたかみのあるメロディと、エレクトロニックミュージックの融合――つまりフォークトロニカと言ってしまえば簡単だが、彼らの音楽はそう単純ではない。

たとえば、M1「Lie to Me」では、不穏なピアノにヴォーカル・サラのダークな歌声が艶やかに響き、静かに彼らの世界へと誘われる。

続くM2「A Secret Message to You」ではタイプライターの音をサンプリングし、牧歌的かつドリーミーな雰囲気に魅了される。

コンポーザーのダスティンによるものと思われる、こうした「なんでも楽器として捉えて使ってしまおう」という発想には、以前書いたミステリー・ジェッツと共にとても影響を受けた。

そしてM3「Salty Seas」では再びアコースティックギターとピアノで退廃的なムードへ。

どの曲も近いようでいて、その実様々な工夫が凝らされている。そんな中、全体の雰囲気を形作っているのは、やはりサラの歌声だろう。

かと思えば、M4「Song for a Sleeping Girl」ではダスティンがメインヴォーカルを務め、包み込むような手触りの音を響かせる。

さらにM5「Distant Radio」、M6「Just One Breath」ではバンドサウンドへと音像が広がり、聴き手を飽きさせない流れとなっている。

メロウなM7「Moments」をはさみ、今作屈指の名曲であるM8「If We Cannot See」に浸る。そこからラストまでの流れは、ぜひ実際に聴いて確かめていただきたい。

斉藤壮馬

ちなみにこのアルバムはサブスクでも聴けるのだが、ぼくは当時買ったCDも保管している。

先日、ふとCDで聴きたくなって、それならばいっそコンパクトなCDプレイヤーも買おうと思い立ち、購入した。

比較的安価なモデルで、音質もものすごくいいというわけではない。むしろどちらかというとチープな部類に入るかもしれない。

けれど、クリアケースの中で回転するCDを見つめながらスピーカーの音に耳を傾けると、不思議とあのころの気持ちに立ち返ることができたような気がした。

いつかぼくも、部屋にこもってただ音の海にたゆたっていたあのころのような、個人的で内省的なアルバムを作りたい。

それがいつか海を越え、遠くの誰かに届いてくれたら、たまらなく幸せに思うだろう。

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