商業出版に殴り込み。ZINEブームの旗手と中野の書店〈タコシェ〉店主が語る本づくりの可能性

東京・中野にある書店〈タコシェ〉には、作者の熱量がほとばしる自主制作のZINEから作り込まれたアートブックまで、店主の中山亜弓さんが愛を持ってセレクトする多様な本が並ぶ。ここで週2回店番をしている碇雪恵さんは、自主制作のZINE『35歳からの反抗期入門』が累計4,600部を記録したZINEブームの旗手。このたび上梓した商業デビューエッセイ『そいつはほんとに敵なのか』を前に、自主制作と商業出版の違い、それぞれの可能性を語った。

photo: Hikari Koki

書店員と作家が交わす、ZINEの自由さ、商業出版の飛距離

中山亜弓

この本に書かれている、不愉快な出来事に遭遇した時に内心ワクワクする感じ、ちょっと自分もわかる気がします。

碇雪恵

駅で怒っているおじさんを見ると、不快だけど心身が沸き立つ感覚があって。

中山

一緒に店番をしていて、外から店内を撮影している人がいると碇さんは「やめてください!」とジェスチャーで追い払うじゃないですか。すごいなと思いながら見てるんですけど、そうした行動の根底には異質な他者と関わることを求める気持ちもあるのだと感じ取れて面白かったです。

中山さんこそ、異質さを楽しむ力が私なんかよりすごくある。だからタコシェが長く続いているんだろうなって思います。

中山亜弓(左)、碇 雪恵(右)

中山

今回は編集の方と一緒に作った初の商業出版の本ですが、自主制作の時と何か変わったことはありましたか?

千載一遇のチャンスだ、この本に私のすべてを懸ける!みたいな気持ちではなかったかもしれないです。適度に肩の力を抜いて、とりあえず目の前にいる編集の方に向けて書くことだけを考えて。

中山

それはいいですね。本書は「喧嘩を求めているんじゃないか」というところから始まり、友達や家族との向き合い方を検証したり、敵だと思っていた他者に会って話を聞いてみたりといったふうに、一段ずつステップを踏んでいるじゃないですか。そのプロセスが、自主制作の本とはまた違う魅力になっていたと思います。

今言われて気づきました。それは編集者と方向性を模索した結果かもしれません。

中山

最近は、自費出版が盛んになって自分一人でも本を作れる時代に「編集」の役割とはなんだろうと考えています。例えば、究極Q太郎さんの『散歩依存症』(現代書館)は、数十年にわたってコピー本で発表していた詩から編集者が発掘して書籍の形にしたもので、装丁からカッコいい。いきなり大岡信賞という文学賞を受賞したりして。レアアースを発掘・精錬するような作業を、編集さんがしているのだと思います。

そう言われると今回の私の本も、一人で頑張っていたら辿り着けない場所に行けた感覚があります。編集やデザイナー、営業の方も含め、いろんな方の力を借りられるのが商業出版の良さかもしれません。

中山

一方で、やっぱりZINEにも魅力があって。例えば、道端に落ちているレシートを拾ってその店に行き、同じものを買ってまた旅の途中でレシートを拾う模様を綴った『レシートの旅』(車掌文庫シリーズ)は、ZINEならではの偶然性と自由さを携えている。2019年に香港で市民運動が起こった際、匿名性が保たれるという理由でウェブよりもZINEで言論や作品を発表する人が多かったのも印象に残っています。

自分で作って売る手段があるというのはとても健全なことだと思いますね。商業出版だけだったら、本が売れないともうダメだと思ってしまいそう。編集者さんと一緒に作ることでの不確定な要素も楽しみつつ、自分でも本を作っていきたいです。

中山

『35歳からの反抗期入門』はフェミニズムに触れた話が書かれていたり、今回の本では政治と向き合ったり、時代の風潮を捉えながら、一ヵ所にとどまることなく常に問い続けている。これから碇さんがどこに行くのか、また読ませてくださいね。

『そいつはほんとに敵なのか』(左)
駅でキレているおじさん、理解できない政党の支持者、時にすれ違う家族や友人──憎みかけた“そいつ”と生きていくための思考と実践を記録した碇雪恵の商業デビュー作。hayaoki books/1,870円。
『35歳からの反抗期入門』(右)
遅すぎる反抗期を発症した2019年。碇雪恵が35歳の頃に始めたブログを基に自主制作したZINE。トイレで手を洗わない男性や他者を神格化することの恐ろしさなどを綴っている。温度/1,210円。

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