いなもあきこが『たしかに熊だが』を上梓。安藤夏樹、小木基史とともに木彫り熊の価値を捉え直す

近年、アートコレクターの間で見直されている木彫り熊。長年、北海道ではごく普通の置物として扱われてきたが、その価値にいち早く気づいたのがプレコグ・スタヂオの安藤夏樹といなもあきこだった。2人は作品の蒐集(しゅうしゅう)・研究のため、熊彫の町・北海道八雲町に足繁く通い、作家の遺族や知人への取材を敢行。そのなかでいなもは、木彫り熊を農民美術として発展させていった人々の物語を描きたいと思うようになり、2025年11月に小説『たしかに熊だが』を上梓した。そして、ファッションキュレーターであり北海道出身の小木基史(POGGY)もまた、木彫り熊の価値を捉え直した一人だ。そんな3人が熊を片手に語り合った。

photo: Jun Nakagawa / text: Ayano Yoshida

すでに世の中にあるものを集め、体系化することの尊さ

小木基史

北海道出身の僕にとって、木彫り熊って実家や友人の家に必ず置いてある身近なもの。もともと、アートというイメージはありませんでした。

いなもあきこ

2016年にリサーチで初めて八雲町を訪ねた時、現地の方々も同じことをおっしゃっていました。

小木

でも、4〜5年前に現代アーティストのHaroshiさんから「木彫り熊は実はすごく面白い」と薦められて、気になり始めたんです。その後、24年に安藤さんが企画された展示で初めて木彫り熊を購入しました。作品の系譜をきちんと学びたいと思っていたので『たしかに熊だが』を拝読しました。

小説『たしかに熊だが』
『たしかに熊だが』
大正期、尾張徳川家第19代当主・徳川義親がスイスから持ち帰った木彫り熊が、北海道・八雲で農民美術として発展していく。綿密な取材と想像力、史実に基づき、柴崎重行、根本勲ら木彫り熊作家たちの軌跡を描く歴史小説。プレコグ・スタヂオ/3,960円。

安藤夏樹

もともと木彫り熊は、大正期に八雲町の農場主だった徳川義親が「農閑期の副業と趣味のために」とスイスから持ち込み、ペザントアート(農民美術)として発展させた歴史があるんです。北海道の木彫り熊ってすごくメジャーなのに僕らが興味を持った当時、その歴史すらほとんど知られてなかったんです。

いなも

そのことが、小説を書きたいと思った動機の一つでした。

小木

特に良かったのは、史料を丹念に調べ、関係者へのインタビューを重ねたうえで、ノンフィクションをフィクションでつなぎ、エンターテインメントとして成立させている点です。楽しく読み進めるうちに、自然とその歴史や重要人物について理解できました。

いなも

ありがとうございます。取材・執筆に7年もかかったので、実は途中で何度も挫折しかけたんです。

小木

以前、ヒップホップを学びたいと思った時期に『HIP HOP AMERICA』という本で勉強したんです。その時、情報を体系的にまとめた本の重要性を実感しました。この本は、それと同様に参考書になると思っています。

いなも

柴崎重行や根本勲といった、黎明期に活躍した実在の木彫り熊作家の皆さんが、とても魅力的なんですよね。ご遺族にインタビューしてみると、その思いが増していったんです。例えば根本さんは、作品からはシャープな印象を受けますが、家族から見るとかわいい人だったそう。話を聞くうちに、「この場面ではこう言うだろうな」と、その人たちの姿が自然と思い浮かぶようになっていました。

小木

NHKの朝の連続テレビ小説にもできそうなストーリーですよね。

安藤

僕のイメージでは、徳川義親役は俳優の鈴木亮平さんです(笑)。

いなも

いいですね〜。飄々(ひょうひょう)とした感じで演じてほしいな。

安藤

僕が木彫り熊を蒐集し、SNSや展示を通じて発信しているのは、その価値が再発見されたらいいなと思っているからなんです。だから、この小説がドラマになったり、木彫り熊を見直すきっかけになったりしたら本当に嬉しい。小木さんは、小説を読んだ後にイメージはどう変わりましたか?

小木

はい。素朴だけれど、上質な木材が使われ、繊細に彫り込まれている。クワイエットラグジュアリーに通じるものがあると、今は感じています。

左から、安藤夏樹、いなもあきこ、小木基史(POGGY)
左から、安藤夏樹、いなもあきこ、小木基史(POGGY)。

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