アーティストとの協働から表現の可能性を拡張する〈CCBT〉が、新たなフェーズへ
〈シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)〉は、東京都の文化事業の一環として2022年に渋谷公園通りに誕生した創造拠点だ。展覧会や、作家によるワークショップなど、多くの人を巻き込み、人々が創造性を発揮する場として斬新な発信を行ってきた。そして2025年12月、原宿・竹下通り近くに移転。アートとデジタルテクノロジーを通じて、東京に新しい考え方を提示するべく、再出発を果たした。
リニューアルオープンを飾る特別展『新道路』を手がけたのは、2024年の〈ワタリウム美術館〉での個展や、現在〈金沢21世紀美術館〉で開催中の個展も好評で、今、勢いに乗るアーティストチーム・SIDE CORE。SIDE COREは、2022年度に〈CCBT〉のパートナーとして企画や、創作過程の公開、ワークショップ等を行うアーティスト・フェローを務め、「都市の地下空間」をテーマにした作品『rode work ver. under city』を発表した。都市をフィールドに創作を続ける彼らは、今回〈CCBT〉とのコラボレーションにより、ロードムービー形式の映像インスタレーション作品を制作した。作品のモチーフとなるのは東京と石川・能登をつなぐ「道路」。ストリートカルチャーの思想を下敷きに、作品を通して異なる文化や価値観をつなげてきたSIDE COREの試みに、物理的に役立つのが道路だ。本展は、表現の場としての道路を展示の軸とし、同時に今作品の制作過程を辿り、足跡に触れることができる内容となっている。映像内に登場する車をはじめ、リサーチ資料や、インスピレーションをもたらした事物や移動の記録が余すことなく展示されている。
この日会場を訪れたのは、建築家の津川恵理さん。2025年度は、アーティスト・フェローへの助言を行うメンターとして、〈CCBT〉に参画している。津川さんとSIDE COREの松下徹さんが展示を一緒に回り始めると、東京と地方の関係から都市とアートのつながりまで話が広がった。


ロードムービーとインスタレーションで、東京から能登への旅を追体験
津川恵理
SIDE COREのみなさんは、〈CCBT〉とはいろいろな関わり方をしてきていますよね。
松下 徹
〈CCBT〉は〈東京都歴史文化財団〉の事業の一つで、財団は主に美術館や劇場の運営をしています。美術館は完成された作品を見る場所ですが、〈CCBT〉は作品の背景にあるアイデアや制作のプロセスに関わる施設と認識しています。2022年度にSIDE COREが〈CCBT〉のアーティスト・フェローとして制作した『rode work ver. under city』に協力していただきました。普段は滅多に入れない地下調整池や使われていない浄水施設、地下鉄の廃駅などで撮影をしたのですが、個人では難しかったと思います。
津川
リニューアル特別展『新道路』では、メインとなる映像作品『living road』でロードムービー風に描かれる、東京から石川・能登への旅に引き込まれました。
松下
奥能登国際芸術祭に参加した縁があり、能登半島地震をきっかけに、能登に通うようになりました。この作品では大都市と地方都市をつなぐ「道路」を映像にすることで、都市が他の地域によって成り立っているシステムであることを示唆したいと思いました。〈CCBT〉が東京の施設ということもあって、あえて“上京物語”的なものとは逆の表現にしています。
津川
「道路」は、都市と地方とを媒介するインフラ。都市は、電力や農業といったほかの地域のインフラのすべての恩恵を享受して、成り立っていることを痛感します。
松下
そうですね。3階展示室では、制作期間で集まった木や石などの自然物、絵コンテやゆかりの場所について書かれたリーフレットなどの資料も展示しています。土地と土地をつなぎながら旅をしていた期間の収集物から、都市の成り立ちについて考えた時間を追体験してもらえる仕掛けになっています。
津川
外の駐車場から始まる展示スタイルも新鮮です。東京から能登に行くロードムービーに登場する車を屋外で鑑賞することで、土地から土地への旅を覗き見しているような不思議な感覚になりますね。
松下
出発点となる街の屋外の空気を体感してもらえたらとも。原宿って、賑やかな通りから少し内に入ると住宅地が静かに広がっている。戦後は闇市が立っていたという歴史など、複数のレイヤーの上に成り立つこの街の面白さがあるので。
津川
松下さんは、これまでの制作でも、都市のさまざまな側面のなかでとりわけ歴史面にフォーカスされている印象です。
松下
歴史に限った話ではないのですが、都市を視覚的に見るだけでは知ることができないことが多いと思います。体験することや、知識を得ることで全く違う景色が現れます。映像の撮影の面白いところは、撮影場所のことを調べることから始まり、その場所で行動し、その記録を編集するというプロセスです。過去からちょっと先の未来まで、その空間の時間軸に触れることができます。
アートと社会をつなげる、パブリックの意義とこれからの〈CCBT〉

松下
「個人で実現できる範囲で、面白いことをする」のがアーティストにとって重要だと考えているのですが、他者や機関の助けを借りることで広がる想像力もあります。作品内で、主人公がトンネルを車で走りながら眠るシーンがあるのですが、スタジオで特殊撮影した素材を使っています。メディアアートを扱うことが多い〈CCBT〉との共同のプロジェクトだからこそ、実現できたアイデアです。
津川
〈CCBT〉は技術面と公共性、両面からアーティストをサポートしていますよね。都市をモチーフとするSIDE COREの作品づくりと、公共性のある〈CCBT〉ってすごく相性がいい。だからこそリニューアルオープンでの展示も任されたのかと思います。
松下
公の力を表現に用いるのは諸刃の剣だと思いますが、一方アートヒストリーは個人の力と公的な力が絡み合うことで形作られてきた経緯もあります。ストリートカルチャーって、本来は、行政などの「権威」とは対立するものです。ただ、「パブリック(=公共)」って、基本的には誰でもアクセスできるものであるという前提を持っています。80年代のニューヨークで〈Public Art Fund〉(*1)というNPOがパブリックアートのプロジェクトを多く展開しましたが、マイノリティーの作家のメッセージ性の高い名作がこれらのプロジェクトから多く生まれてきました。
津川
ニューヨークには、その頃から、新しく建物を立てる際には建設予算の何%かをアートに使用しなければいけないと定めた「パーセント・フォー・アート」(*2)がありますね。
松下
都市に資本や権力を集中させないという建前で戦後復興が行われましたが、結果は見ての通りです。例えば芸術祭などは観光と結びつけることで都市に資本や権力が集中しすぎないようにするプロジェクトですが、この限界も近年は多く指摘されています。そこで私たちが今回考えたことは、東京で行われるプロジェクトであえて他の地域を舞台とすることです。ストリートカルチャーは、異なる場所に暮らす人たちが影響し合うことで発展してきました。今回のアプローチが適切かどうかはまだわかりませんが、場所を超えたつながりから生まれくる、面白いことを引き続き探したいと考えています。
津川
創作活動のような数値化できない豊かさが、公共文化にどんな役割を果たすのか。〈CCBT〉の展示や活動を通じて、見えてくると思います。移転前の渋谷もここ原宿も、それぞれのカルチャー文脈を持った街。個人的には、他にももっといろんな街と〈CCBT〉の組み合わせを見てみたいと思います。
いろいろなエリアに移転していくのも面白そうです。〈CCBT〉を追っていくと都市の歴史文脈をなぞれる、とか……。
松下
アーティストの表現の場としても、実験的であり続けるためには、場所を変えていくのは確かに良いアプローチな気がしますね。権威になることを避け、あえて成熟し切らないようにする。〈CCBT〉自身にとっては大変な実験かもしれませんが(笑)。
津川
流動的で開かれた場として進化を重ねていきたいですね。
〈CCBT〉が初めて迎えたリニューアルオープン。SIDE COREの展示は都市という存在の特異性とそれを支える「つながり」を探るもので、原宿から延びる新たな道のりを示唆してもいる。〈CCBT〉という実験場は、これから、この街が持つ文化や歴史の重なりを吸収しながら育っていくのだろう。












