俳優が憧れた俳優。戸塚純貴が語る井浦新と、その演技について

戸塚純貴が語る、長い日本映画の歴史の中で自らが憧れた俳優・井浦新と、その演技について。演じることに向き合いながら追いかけ続ける、心に残る芝居とは。

photo: Jun Nakagawa / styling: Hiromi Nakamoto / hair & make: Masaki Takahashi / text: Urara Konishi

喜劇の真髄は、作品の中に生きること

尊敬する俳優を聞かれると決まって映画『マスク』のジム・キャリーと答えるくらい、根底に喜劇役者への憧憬があるという戸塚純貴さん。

「昔から、ユーモアで画面をその人の色に染めてしまうような俳優に憧れています。20代の頃に池袋の新文芸坐に通っていて、黒澤明や成瀬巳喜男、小津安二郎の映画の常連俳優だった加東大介さんに目を奪われました。『七人の侍』でのシリアスな演技だけでなく、『秋刀魚の味』『浮雲』などで見せたコミカルな表情も強く印象に残っていて。彼が出てくるだけで、空気がガラッと変わるんですよ。

この仕事を始めてからは、同じ理由で阿部サダヲさんにも影響を受けて。現場でご挨拶した時は穏やかなのに、舞台に立った瞬間に視線を集めて、周囲を一気に笑顔にする力がある。自分もそんな俳優を目指したいなと思いました」

そんな戸塚さんの中で唯一無二の芝居として印象に残る作品は、2013年公開の『ジ、エクストリーム、スキヤキ』。終盤の井浦新の表情に、すべてを持っていかれたという。

「井浦さんが演じる洞口は、人生を諦めて自殺を図ったことがある男なんですが、空っぽで何も色がない人。作中の井浦さんは、“空っぽな演技がうまい”んじゃなくて、本当にそういう人に見えて。たまらなくおかしくて、魅力的でした。洞口が大学時代の親友・大川と交わす会話劇も絶妙。クスクス笑っているうちに、いつの間にか感情移入していましたね」

物語の最後、海岸でブーメランを投げる大川。すると後戻りできない人生を象徴するように、ブーメランが海の彼方へ消えていく……と思いきや、弧を描いて砂浜にザクッと刺さる、というシュールな顛末だ。

「その時の洞口の、何とも言えない真顔がめちゃくちゃ面白くて。桂文枝師匠が椅子から崩れ落ちる勢いで、映画館で声を出して笑ってしまいました。それはきっと、井浦さんが画面の中で本当に洞口として生きていたから。自分が目指す喜劇の理想が、そこにあったんだと思います。自分の原点を思い起こさせてくれるような、思い出深い作品ですね」

俳優・戸塚純貴
トップス59,400円、パンツ66,000円(共にクレスト/バウ インク TEL:070-9199-0913)

自分の声を聴いて俳優として初心に返った

そんな戸塚さんは最近、図らずも俳優としての初心を思い出す経験をした。公開中の劇場アニメ『ホウセンカ』で、声優に初挑戦したのだ。

「自分ではないキャラクターが、自分の声で話しているのはとても新鮮でした。初めて自分の出演作を観た時、“俺ってこんな芝居してるんだ”と思ったのに近いかもしれません。芝居を始めてから長い気がしていましたけど、まだまだこんな体験ができることが嬉しかった。いつか、声だけでも画面の空気を変えられる俳優になりたいなとも思いました」

井浦新の一本

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