俳優が憧れた俳優。木竜麻生が語る新珠三千代と、その演技について

木竜麻生が語る、長い日本映画の歴史の中で自らが憧れた俳優・新珠三千代と、その演技について。演じることに向き合いながら追いかけ続ける、心に残る芝居とは。

photo: Jun Nakagawa / text: Emi Fukushima / styling: Takafumi Kawasaki / hair & make: RYO

歩き方、仕草、そして“目”が語るもの

「女の人がたばこを買って、車の往来を気にしながら道路を渡る。そして向こう側で待つ男の人に届ける。たったそれだけのシーンなのに、歩く速度、歩幅、姿勢、仕草の一つ一つから彼女にどこか隙があることや、男女の間にほんのり惰性の空気が漂っているのが透けて見えるんです。その一連から一気に心を掴まれます」

2025年10月公開の映画『見はらし世代』での好演が光る木竜麻生さんがこう語るのは、『洲崎パラダイス 赤信号』の冒頭。“女の人”とは、うだつの上がらない恋人の義治と、遊郭の入口に隣接する居酒屋に流れ着くこととなる元遊女の蔦枝のこと。当時日活の看板俳優だった新珠三千代が演じている。

木竜さんにとっては生まれる40年近く前の作品。しかし数年前に観て受けた印象は、新鮮で強烈だった。特に冒頭に次いで心を射抜かれたのが、新珠の“目”だ。

「前半の蔦枝は働き始めた居酒屋で、お酌をして冗談を言って、当時で言う器量の良さをフル稼働させて男性客の心を掴みます。屈託のない女性に見えるんですが、次第に表情に本心を隠しているような不穏さが垣間見えるようになる。

そして終盤、紆余曲折を経て離別していた義治と再対面する無言のシーンの蔦枝の目は、含みがあって序盤とはまるで別人。“何を考えているんだろう”と思わず心を寄せてしまいます。改めて映画の面白さは、物語を通じ登場人物が微妙に変化していくさまを見守れることにあると気づかされます」

俳優・木竜麻生
ブラウス、スカート(共にMame Kurogouchi/マメ クロゴウチ www.mamekurogouchi.com

一心に背中を追うのではなく、あくまで自分なりの方法で

かくいう木竜さんもまた、役の繊細な心情やその変化をさまざまな形で表現してきた。映画『見はらし世代』で演じた恵美はその筆頭。仕事を優先して家族をないがしろにした父親を長年許せず、葛藤する難しい役どころだ。

「恵美はフラストレーションや不安を抱えながらも、慎重に言葉を選んで口に出す女性。セリフのトーン、仕草などは、団塚(唯我)監督と綿密にすり合わせました。一方、中村蒼さん演じる恋人の安藤だけが、彼女が唯一言葉を整理し切らずに話せる相手。彼と向かい合うわずかなシーンでその違いをどう表せるかには、試行錯誤しながら取り組みましたね」

いずれは「新珠さんのように想像力を掻き立てる豊かなお芝居ができたら」と木竜さん。しかしその思いは、“彼女のような俳優になりたい”という憧れとは少し違うようだ。

「素晴らしい芝居に触れた時ほど、自分ならどんな経験を積み、どう内面を磨いて表現の幅を広げるかに変換して考えることを心がけています。まずは自分という人間に向き合う時間を大事にしたいなと。別の誰かに憧れるのがなんとなく悔しいのかもしれない(笑)。自分にしか歩けない道を進んでいきたいです」

新珠三千代の一本

映画『洲崎パラダイス 赤信号』
『洲崎パラダイス 赤信号』©日活

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