恐竜の新種が発見されるペースは世界中で年に約40種ほど。意外と多いと思うかもしれないが、各国の調査チームが目を皿のようにして探しても、何も見つからないことも珍しくない。そんな中、日本における恐竜研究の第一人者である小林快次さんは、これまでにいくつもの発見をしてきたことで知られている。
「代表的なのは、デイノケイルスの全身骨格でしょうか。あとは北海道むかわ町で発掘したカムイサウルス。どちらも約7200万〜7000万年前の白亜紀に存在した恐竜です」
そんな小林さんの主戦場は、ゴビ砂漠やアラスカなどの過酷な地。見渡す限り人工物のない大自然のど真ん中にヘリコプターで降り立ち、キャンプを張って滞在する。アラスカで1週間、ゴビ砂漠では長くて2ヵ月。過酷な自然界での発掘作業は、意外にも歩くことから始まるという。
「地質や地表下の石の年代が記された地質図から、ある程度までは発掘ポイントを絞り込めますが、実際には自分の足で歩き回ってポイントを探さなければいけません。1日に30km歩くこともあります」
そこは手つかずの大自然。当然、さまざまな危険がつきまとう。アラスカで怖いのは野生動物だ。「グリズリーやヘラジカ、オオカミなどは頻繁に遭遇します。化石を見つけると型取り作業のため一ヵ所に数時間とどまるのですが、その間は彼らの格好の的。そもそも寒いので低体温症のリスクもありますし、発掘作業は常に自然との闘いです」
ゴビ砂漠では、雨によってできた川に流されそうになったこともある。「現場ではアドレナリンが出ているからか意外と恐怖心はないんですが、危ない目には何度も遭っています」

それでも、現場で調査しているときが一番楽しいという。「恐竜と同じように、自分も過酷な環境を経験することで、研究のアイデアが生まれてくるんです」
小林さんが追い求めているテーマの一つが、“恐竜は越冬できたのか”。アラスカで見つかる化石が、その答えの鍵を握っている。「恐竜は暖かい場所にしか棲(す)めなかったと思われがちですが、アラスカでも化石は見つかっています」
恐竜に厳しい冬を越す能力があったとしたら、隕石衝突による寒冷化が絶滅の原因だったという従来の説に疑問が生まれる。それはひいては、現代や未来の生物の多様性や環境問題を考えるうえでも大きなヒントになる。古生物学は、絶対の正解がわからないのが面白さ。これからも小林さんの研究は続く。
小林さんの冒険を感じる旅先へ

アメリカ最大の国立公園の中にある、ミューリー科学学習センター。アラスカの玄関口、アンカレジ国際空港から車で約4時間で到着だ。「センターには、私たちが見つけた化石の展示が見られます。また、公園内のトレイルにも意外と化石が落ちているので、興味があればぜひ歩いてみてください」(小林)