現代の“パンソリ”を作り上げていく。新しい韓国の伝統音楽を生み出す鬼才〈LEENALCHI〉

活況なインディーズシーン。中でも伝統音楽が独自の進化を遂げている。国内、そして世界からも注目される〈LEENALCHI〉に話を聞いた。

photo/Tetsuya Ito text/Aya Narikawa coordination/Jinon Kim (TOKYO DABANSA): Tetsuya Ito / text: Aya Narikawa / coordination: Jinon Kim(TOKYO DABANSA)

アップデートではない、現代の“パンソリ”を作り上げていく

イナルチの「虎が下りてくる」(Tiger is Coming)が大流行したのは、2020年のコロナ禍だった。韓国観光公社の広報動画にその曲が使われ、現代舞踊集団〈アンビギュアス・ダンス・カンパニー〉のシンクロ率の高い独特のダンスも相まって、億単位の再生回数を記録した。一度聴いたら繰り返し聴きたくなる中毒性のある曲だ。

リーダーのチャン・ヨンギュは「パンソリがこれほど注目を浴びたのは、映画『風の丘を越えて/西便制』(1993年)以来」と言う。日本でもイム・グォンテク監督の『風の丘を越えて』を通して知ったという人は少なくない。ソウルだけで劇場観客数が100万人を超え、高度経済成長の間に衰退しつつあったパンソリが見直されるきっかけとなった。「虎が下りてくる」は伝統的な演目「水宮歌(スグンガ)」に出てくる一場面だが、あまり知られた場面でなかったため、「水宮歌に虎が出てくるの?」と話題になった。

パンソリは「ソリクン」と呼ばれる歌い手と「鼓手(コス)」と呼ばれる太鼓奏者が物語を歌と語りで表現する伝統芸能で、日本の浪曲に少し似ている。ボーカル(アン・イホ、チョン・ヒョジョン、チェ・スイン)は3人ともソリクンで、コスの役割をベース(チャン・ヨンギュ、ノディ)とドラム(イ・ヨンジン)が担っている。

「伝統音楽の現代化ですかね」と聞くと、ヨンギュは否定してこう続けた。

「朝鮮時代は朝鮮時代の、21世紀は21世紀のパンソリがあって当然。かつては大衆音楽だったその魅力を、現代を生きる人にどう伝えるのか、常に考えています」

彼は映画の音楽監督としても知られる一方、90年代から伝統音楽のアーティストと共に活動し、試行錯誤を重ねてきた。昨年、50年代を背景に女性国劇を描いたドラマ『ジョンニョン:スター誕生』がヒットし、再びパンソリが脚光を浴びた。女性国劇は宝塚歌劇団のように女性が男性役も演じるミュージカルだが、歌はパンソリだ。ドラマでは彼らの楽曲が使われただけでなく、ヨンギュが音楽監督を務めた。

LEENALCHI
左から、イ・ヨンジン、アン・イホ、チェ・スイン、チャン・ヨンギュ、チョン・ヒョジョン、ノディ。

新しい演目を作り、世界を一から立ち上げる

メンバーは一部入れ替わりながら活動している。現在一番若手のボーカル、チェ・スインは今年ソウル大学国楽科を卒業したばかり。2020年大学入学時からすでにバンドは活躍していた。

「大学時代から、クラシックの楽器や現代舞踊とパンソリを融合させる試みなど、いろんな挑戦をしながら“彼らみたいになるぞ!”って言っていました。ハッハッハ!」

笑い声も歌声のように豪快な彼女は幼い頃から声楽とパンソリを並行して習っていたが、パンソリを選んだのは「物語に興味を感じたから。登場人物の視点によっていかようにも解釈できる」という部分に魅力を感じたという。

チョン・ヒョジョンは小学生の頃からパンソリを学ぶ一方で、父の影響でマイケル・ジャクソンの熱烈なファンでもあった。「マイケルが何万人もの前で歌うのを見ながら、気持ちいいだろうなと漠然と思っていたけれど、まさか自分が大きな舞台に立つ日が来るとは」と、伝統音楽を担いながら、フェスをはじめ大観衆の前で歌うことに喜びと驚きを覚えているという。

昨年は東京、名古屋でも舞台に立ち、世界中を飛び回って公演を重ねてきたが、2025年は2月のシンガポール公演の後は2ndアルバムの準備に集中している。既存の演目から作った1stアルバム『SUGUNGGA』とは違い、新たな物語を劇作家が描き、そこから曲を作るという作業を同時並行で進めている。新しい演目を作る作業、まさにパンソリの現在形を作っている。

LEENALCHIを聴くなら

『SUGUNGGA』/2020年リリースの1stアルバム。代表曲「Tiger is Coming」や「Catch a Rabbit」などパンソリの演目「水宮歌」に登場する動物たちをユーモラスに歌い上げた。
「Look At Me Look At Me」/劇作家キム・ヨンジェ作詞、チャン・ヨンギュ作曲で、新たな物語を歌う。SFの世界観で戦争と暴力に抗う主人公を描いたシリーズの一曲

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