服は、時間の器である。〈HOSOO〉が初のメンズウェアライン〈HOSOO MEN〉を京都にオープン

服は、時間の器である。〈HOSOO〉が初のメンズウェアライン〈HOSOO MEN〉を京都にオープン

1688年創業の西陣織の老舗〈HOSOO〉が、初のメンズウェアライン〈HOSOO MEN〉の旗艦店を3月28日(土)に京都でオープン。一足早く、現地を訪れた。

3月中旬。開店に先立ち招かれた〈HOSOO MEN〉の店舗は、京都・御所南エリア、第7長谷ビルの1階にあった。外壁に小さくロゴがあるだけの黒い外壁の入口をくぐると、奥に向かって細長い空間が広がる。壁面に沿ってゴールドのハンガーラックが並び、温かみのある照明が、静かで清潔な空間を作り出していた。

店内の壁には〈HOSOO〉のシルクのテキスタイルが張り込まれ、立つ角度によって色や表情が変わる。その店内の中心にあるのは、継ぎ目のない長さ約10メートルの欅の一枚板。以前ここで古美術ギャラリーを営んでいたオーナーから引き継いだものだ。

天井には8つのスピーカーと、が配置されている。〈HOSOO〉とコラボレーションの作品を制作したアーティストのカールステン・ニコライから勧めてもらった希少な、ドイツのMusike社製だ。さらに会計カウンターとして使われているテーブルの天板を開けると、中にはターンテーブルが収められている。音楽と空間への思いが、什器の細部にまで及んでいる。

この空間を作った12代目当主の細尾真孝さんは、音楽活動や上海でのブランド立ち上げを経て家業に入った異色の経営者。世界標準幅の織機を独自開発し、様々なラグジュアリーブランドの店舗内装、レクサスLSのシートへと〈HOSOO〉の西陣織を届けてきた。

店内のハンガーラックには、白と黒を基調にしたシャツ、パンツ、コートが並ぶ。素材は麻を使用した独自のテキスタイル「HOSOO Artisanal Hemp」を使用しているが、手に取ると、リネンともシルクとも異なる、しっとりとした独特の質感がある。

麻はかつて日本に深く根付いた素材だった。縄文時代の遺跡からも断片が見つかり、神事にも欠かせない素材として長く使われてきた歴史がある。ところが産業革命以降、工業化の波に乗り遅れた。「機械で紡ごうとすると、繊維が潰れて短く硬い糸になってしまう」と細尾さんは言う。さらに戦後、GHQの占領政策のもとで大麻取締法が制定され、栽培が厳しく制限されたことで、その技術と文化はほぼ途絶えた。

細尾さんがその壁を突破するきっかけになったのが、江戸時代の古布だった。当時の麻布は水に濡らして川で晒し、天日に干す。その工程を何十回、何百回と繰り返すことで、シルクのように白く柔らかくなっていく。古布研究家であり美術家でもある吉田真一郎さんのアーカイブが、その事実を教えてくれた。失われた製法を現代の技術で再現する研究に、細尾さんは十数年を費やしたという。

この日は特別に、レセプションのあと、関西日仏学館内の図書室へと場所を移した。吉田さんのコレクションから持ち出された江戸時代の麻布や着物が並ぶ。

おもむろに細尾さんが広げた一枚の布は、一見すると粗い麻布だが、触れると硬さの奥に柔らかさがある。着物をいったんパーツに解体して洗い直す「洗い張り」を経たもので、使い込むほど繊維がほぐれて柔らかくなるのだという。

展示には「被衣(かつぎ)」と呼ばれる着物もあった。頭からすっぽりかぶる構造で、新作コートのフードはこれを原型にしている。江戸の日常着が、そのままデザインの根拠になる。それが〈HOSOO MEN〉の作り方なのだ。

目指すのは、消費されて終わる服ではない。将来的には、使い込まれてボロになった自社製品を買い取り、江戸や明治時代のもう作れなくなった糸でリペアして戻すという循環を構想している。

「修復されたものがまた染め直されてボロになって出てきたとき、その物の価値は新品のときより上がっていると思う。茶道具の箱書きのように、誰が持ち、どう受け継いだか。その来歴ごと価値になっていくんです」

そう話す細尾さんは、染料となる植物の栽培から蚕(かいこ)の育成まで、素材づくりそのものにも乗り出している。絶滅危惧種の植物、ニホンムラサキ(紫草)を丹波の自社畑で栽培し、京都・丹後では4万平米の桑畑と養蚕施設「KYOTO SILK HUB」を建設中だ。

「どうやったら時間を長く積み上げていくのか。服を『時間の器』として、時間をデザインしていく。それがこのブランドのコンセプトなんです」。

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