調子の良し悪しも含めて、その日の自分を演奏で表現する
「意識的にまず整えているのは、“爪”です。指でベースを弾く以上、爪は楽器の一部のような存在で、長すぎると音色やタッチに影響が出てきます。目安としては、白くなった部分が少しでも伸びるとアウト!弦への当たりが変わってしまいます」
ツアー中など忙しい時ほど、爪の状態は必ずチェックするという。パフォーマンスのために意識している身だしなみのことは、ほかにもある。
「髭や眼鏡も、自分らしい演奏を形作る要素です。ただの“おしゃれ”というより、バンドの中で自分のキャラクターをどう立てるか。メンバーとも話しながら、“試して”“やめて”“残して”、という調整を積み重ね、今の形に落ち着きました」
あご髭を整え、ほかは剃り落とし、丸眼鏡を掛けるのが定番スタイル。演奏中も調和を大切にするという。
「ベースは、バンドでは“接着剤”のような存在です。演奏しながら、ドラムのうねり、ギターの隙間、歌のニュアンスにも耳を傾け、メロディとリズムをつなぎ、ハーモニーのバランスを整える。そうやって歯車が嚙み合うように意識を巡らせ、音を奏でるベースは、自分の性にもよく合った楽器だと感じています」
「ルーティンを作らない」という整え方がある
「バンドの中でベースが果たす役割は、ペースメーカーとしての“正確さ”だけでは完結しない。そこが難しいところです。メトロノームにぴたりと揃えることを突き詰めるのであれば、極論パソコンの打ち込みで事足ります。音楽の理論上、弦楽器はそもそも“不完全”で、弾いた瞬間から音が立ち上がりきれる鍵盤楽器や打楽器とは異なり、立ち上がりに幅があって“揺れ”が生まれます。低音域のベースはとりわけ“揺れ”の幅が大きいのが特徴で、その不完全さがうねりやグルーヴを生み、ベーシストの個性となって音楽表現にも生かされます」
新井さんが奏でる音楽は、ベースへの楽器観、さらには自身を形作る人間らしさそのものが大きく影響している。そういった魅力は、特にライブ演奏で発揮される。
「音楽をサバの味噌煮で譬(たと)えるなら、録音は“缶詰”、ライブは“お店のメニュー”のようなもの。場の空気、匂い、客の熱なども含めて料理の味わいが変わるように、ライブは一期一会の要素が桁違いなんです。特にKing Gnuでは、音源の完全再現よりも“余白”を残し、現場でセッションする楽しさを大事にしています。メンバーそれぞれの表現が嚙み合う日は場外ホームラン級になる。一方で、嚙み合わない日は皆さんに気まずいレベル、と波はあります」
その振れ幅も含めて、「偶発性を楽しんでもらいたい」という思いで、King Gnuは活動している。この偶発性を必然にするために、新井さんの揺るがないスタンスとなっているのが、音楽でも私生活でも、「ルーティンを作らない」ことだ。
「理想としているのは、あくまで生活の延長でベースを弾くことです。本番に向けて特別な準備は一切せず、調子の良し悪しも含めて、その日の自分をステージに持ち込むことを“良し”と考えています」
背景には、10代からジャズに精通してきたことが影響している。
「ステージに上がったら、教わったことさえ一度忘れて、そこで出たものが“自分の音楽”という教えで育ちました。たとえ間違えた音を弾いても、その瞬間から過去となり、すぐ次の音楽へコミットする。この姿勢は今も染みついています」
不完全さも味方にする自然体が、すべてに共通する新井さんの揺るがない“整え方”につながっている。
MY STYLE 使い続けることで、自分の手に馴染み、音は整う
「基本的にものは長く使いたいタイプなんです」と言う新井さんを象徴するのが、ベース。その役割は、音楽を整えるだけではない。自分らしくステージに立つ新井さんの“自然体な姿”を表現するものでもある。
「使っていくうちに、手に馴染み、弦の振動の仕方も含めて、どんどん自分らしい音に変わっていく感覚があります。傷の一つ一つにも自分のストーリーがある」
もはや相棒を通り越して、新井さんの生き写しのような存在感がある。

WHAT’S AUGER?→《M Standard》
手指の爪を楽器の一部と捉え、繊細なメンテナンスを行うように、「2、3日に1度は手の爪の長さをチェックしています」という新井さんには、シャープな軽い切れ味が特徴のツメキリ《M Standard》がおすすめ。爪に自然にフィットするカーブ形状のステンレス刃を採用。力が伝わりやすい重厚感のあるメタルテコで、硬い爪も切りやすい。

PLAYLIST with AUGER いつどこでも、気分をフラットに整えてくれる
新井さんのプレイリストは、「大なり小なり影響を受け続けているアーティストの、お気に入りの曲を選びました」という全10曲。どんな時に聴いても新しい発見があり、よく耳にしていた当時の気持ちもふと湧き上がってくるという。