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「怒号が飛ぶ現場を変えたい」白石和彌監督が挑み続ける、映画業界への“仁義ある戦い”

一流のクリエイティブを生み出す場所には、優しいルールがある。

Text: Daisuke Watanuki

「怒号が飛ぶ現場を変えたい」

圧倒的なタテ社会で、怒号が飛び交い、不眠不休で働く……映画の現場はこういった状況が今でも残っている業界だ。その体質に一石を投じたのが白石和彌監督。最新作『孤狼の血 LEVEL2』では、職場でのハラスメント防止のための「リスペクト・トレーニング」を参加できるキャスト・スタッフが撮影前に受講したことでも話題になった。

「ここ数年海外の撮影現場の様子を調べていたのですが、“#MeToo運動”以降この取り組みはマストだと感じます。日本ではNetflixが実践していますが、映画業界では前例がなかった。

僕の作品は題材がインモラルな分、インパクトのあるメッセージとして世間に広がればと思い受講を決めました」

『孤狼の血』シリーズといえば、生々しいバイオレンス描写が見どころの一つ。演技とはいえど演者にはメンタル的に負荷がかかるため、配慮が必要だったようだ。では白石監督が、業界の体制に疑問を持ったきっかけは何だろうか。

「僕は常に現場では笑顔でいるように努めています」と白石監督。©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
ワイヤーアクションなど危険を伴う撮影もあるので、厳しさや緊張感が必要な場面もある。©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

「僕が若松孝二監督の助監督だった頃、映画業界は今よりもっとハラスメント体質でした。それが今も武勇伝として誇らしげに語られているのも問題ですよね。僕が意識するようになったのは『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビューを果たしたとき。監督として取り組むさなか、あるスタッフが年上のスタッフに怒鳴られているところを目撃し、それはマネジメントする監督の責任だと。

一生懸命仕事をしているだけなのに、理不尽に怒られるようなことがあってはならない。それがしんどくて才能があっても去っていった人を多く見てきたので」

その気づきから、白石監督は現場環境の改善に出る。まずはスタッフの前でセクハラ・パワハラは禁止だと宣言することから始めたそうだ。

「まず監督である僕が絶対にしないので、みんなも徹底するようにとお願いをした。その宣言のおかげか、みんなが積極的にお互いにリスペクトを持って声かけするようになった。結果、現場のコミュニケーションが活発になって、良いアウトプットにもつながっていると思います」

白石監督の現場は改善されつつあるが、一方で映画業界全体が抱える問題はまだまだ尽きない。

「本当に危機的なくらい人材が不足しています。特に若い人は少なく、現場の最若手が40代というところも少なくない。それに僕の現場では女性スタッフの数をなるべく増やすようにしていますが、映画業界の男女格差も深刻です。

これからは労働時間や賃金なども改善していかないと、若い世代が増えないし、育たない。より良い現場環境を整備することで、下の世代が自分の仕事に誇りを持ってもらえたら嬉しいです」

現場を育てるやさしいルール

1.「リスペクトしましょうよ」が合言葉。

2.イライラしたときはお互いに声かけ。

3.相手が理解するまで、言葉で説明する。

『孤狼の血 LEVEL2』の撮影現場。キャスト・スタッフは講習で、差別やハラスメントの定義や対処法、相手にリスペクトの姿勢を持つことなどを学んだ。©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会