中米カリブ文学
選んだ人:越川芳明(アメリカ文学研究者)
中米カリブ海で高い評価を得る作家たち。
(1)は長年ハイチで古典として読まれてきた、ジャック・ルーマンの代表作。2020年に邦訳されるまでは、一作も日本語では読めなかったというのが驚きです。
また、(2)と(3)は、共にキューバの作家ですが、革命や経済危機を題材に、アメリカのポストモダン文学に似た作風で評価が高いです。
特に(3)は、言語実験を多く行う作家で、翻訳だと魅力が伝わりづらい。ただし、寺尾訳はうまく解決していて素晴らしいです。
(4)は、現代キューバ文学の中でも、異色の存在であるカルラ・スアレスの代表作。作家自身が数学者であり、数学の概念を用いることも多い。作品数は少ないのですが、出すたびに文学賞を受賞しています。
南米文学
選んだ人:久野量一(ラテンアメリカ文学研究者)
歴史や神話を壮大に描く、
ガルシア=マルケスに続く才能。
やはり南米の作家といえば、ガルシア=マルケス。しかし、(1)は日本では知名度があまり高くありません。欧米圏では、カミュの『ペスト』と並んで、新型コロナの流行で知名度が高まった作品です。
(2)は、画家ゴーギャンの半生を描いていますが、彼がペルーにゆかりがあることは、南米では有名ですが日本では知られていない。
(3)のアジェンデは、作品がことごとくベストセラーになる作家で、スペイン語圏で広く読まれています。この作品は彼女と娘の実体験が色濃く反映されていて最初に読む際にはおすすめしたいです。
(4)のボラーニョはガルシア=マルケス以来の成功を収めた重要な作家として認識されています。
アフリカ文学
選んだ人:粟飯原文子(アフリカ文学研究者)
アフリカ大陸と世界を繋ぐ、
ボーダーレスな文学。
アフリカでは1950年代から60年代の独立の時代に多数の古典が生まれました。その文脈で、(1)のアチェベは「アフリカ文学の父」と呼ばれています。
(2)は2003年にノーベル文学賞を受賞したクッツェーの代表作。(3)のアディーチェは、2013年『アメリカーナ』で全米批評家協会賞受賞、今やアフリカ文学の顔といえるでしょう。
(4)のアグアルーザは日本ではほぼ知られていない作家。ポルトガル語圏の要注目作家の一人です。
作家に共通するのは、大陸の内と外を往来していること。欧米での出版が目立つものの、大陸発の出版活動も見逃せません。アフリカ文学は大陸から世界へと広がるコミュニティであるともいえます。