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世界最大の鉱物の祭典『ツーソン・ショー』探訪記〜後編〜

世界中の鉱物ディーラーやコレクター、そして、ワールドクラスの標本たちが一堂に会する世界最大のミネラルショーに潜入!〈PEANUTS MINERALS〉の亀田和人さんに、祭典の様子をレポートしてもらいました。「世界最大の鉱物の祭典『ツーソン・ショー』探訪記〜前編〜」を見る

photo&coordination: Aya Muto / text: Kazuto Kameda / edit: Shogo Kawabata

Westward Look Mineral Show

あの有名コレクションの
実物が目の前に!

また、今年のWWLの展示で、来場者たちの間で最も話題となっていたのが、世界的コレクター、Scott Rudolph Collectionの展示ブースだ。足を踏み入れるや否や、いきなり巨大なユークレースに足が止まる。この標本は有名な鉱物誌の表紙も飾った逸品だが、ここまで大きいとは想像していなかった。かつメインの伸びやかな結晶の周りに、放射状に結晶が広がるシルエットが美しい。また、一緒に並んでいた赤いロードナイトも驚くようなサイズ感ながら、透明感もしっかりとある素晴らしい標本だった。

Anton Watzl Mineralsには、過去にドイツの鉱物専門誌『Lapis』の表紙を飾ったヘリオドールの姿が!イエローが強めの結晶が多い中、グリーンの色味も感じられるのが良い。このネオン感のあるイエローグリーンこそがヘリオドールのトップカラーだと思う。

Mineral Classicsのサムネイルサイズの標本コーナーも見どころ満載。小さな箱の中に収まる世界観を追い求めるコレクターも多く、同じ鉱物があった場合、サムネイルサイズのケースにぴったりと入るサイズの結晶の方が、高値がつくこともしばしば。

『ツーソンショー』Mineral Classicsのサムネイルサイズの標本コーナー
Mineral Classicsのサムネイルサイズの標本コーナーも見どころ満載。

Loye & Lemon Mineralsでは、標本以外に古い結晶模型なども展示しており、全体の中では一風変わった展示内容だった。ここで興味を惹かれたのは、約200年前に産出したブルーフローライト。ほかに譬えようのない独特な青い色合いで、今もしもこの色で産出が続いていれば、世界一人気のあるフローライトになっていたであろう。そんな中から、赤い縁取りのような蛍光が確認できる、表面研磨したフローライトを購入した。

『ツーソンショー』Loye & Lemon Mineralsブースのブルーフローライト
約200年前に採掘されたブルーフローライト。

Tucson Gem & Mineral Show

旅の最終日、ツーソン・ショーのトリを飾るTucson Gem & Mineral Show(通称メインショー)へ。このショーが終わると、ツーソン・ショーは閉幕する。毎年色々なテーマの特別展示が行われるのが特徴で、会場の5分の1程度はエキシビションが行われるスペースとなる。

会場に入ると、まずはUVライトに照らされて怪しく輝く蛍光鉱物のケースが出迎えてくれた。そして、なぜか会場の天井には毎年、傘が一面にぶら下がっている。これは“ツーソン・ショー七不思議”の一つで、なにか意味があるのか、または会場に常設されているものなのか、謎である。

今年の展示のメインは「アパタイトスーパーグループ」というテーマで、アパタイトという鉱物と、それに関連する広いグループの標本類が色々と展示されていた。アパタイトの展示の一角などには、40歳未満のコレクターが所属できるYMC(ヤングミネラルコレクターズ)なるグループの展示もあった。

彼らは最近、積極的に展示に参加している鉱物業界のニュージェネレーションだ。しかし、ここまでの滞在では新型コロナの影響はあまり感じなかったのだが、メインショーだけは、出展を見送ったであろう業者のスペースが不自然に休憩所になっていたりして、その影響を強く感じた。

Mineral City Show

勢いのある若手ディーラーが
集うMineral City Showへ。

少し寂しかったメインショーの後は、ツーソン・ショーの中ではまだ新興のショーであるMineral City Showへ。今、最も勢いのある場所で、特に若い世代の鉱物商が数多く出展している。このショーには約120の鉱物商が参加しており、そのほとんどの業者が鉱物標本のみを扱う専門業者であることも魅力的。

『ツーソンショー』Mineral City Show 会場 外観
新興のショーであるMineral City Show。

みなブースを思い思いにカスタムしていて、ソファを置いて飲食しながら鉱物を楽しめるようになっているブースもあれば、電飾を入れてまるでバーのように作り込んでいるブースもあるなど、丸一日いても飽きない空間となっている。小規模な業者も多く、話が盛り上がると奥から非売品のマイコレクションを見せてくれたりと、鉱物商とコレクターの境界が曖昧な部分もあり、そこがまた面白い。

Minerals of the World by Jonathanのジョナサンも、話し込んでいると自分のコレクションを嬉しそうに見せてくれた。また、閉場後もそのままクラブイベント的なパーティを開いたりと、これまでの鉱物商たちからは想像できないような新しい動きを見せるところも。こういった若い業者たちが、これまでと違う角度からの鉱物標本文化を作っていくのだろう。

その後、22nd Street Showへ。このショーは、ツーソン・ショー会場の中でも最大級の大きさを誇る巨大テントで、その中には雑多なジャンルのお店が所狭しと広がっているほか、フードトラックが出店していたりと、お祭りのような雰囲気のある場所。

その場でオパールやエメラルドを削る様子が見られたり、アーティストの謎のオブジェを販売していたり。かと思えば、ベニトアイトやトルマリンの素晴らしい掘り出しモノが見つかったりもするから、決してあなどれない。

The Co-op /
Alfie Norville Gem & Mineral Museum

私は専門外なのだが化石のディーラーが集まるThe Co-opという会場で恐竜の全身骨格化石などを眺めつつ、最近新装オープンしたばかりのAlfie Norville Gem & Mineral Museumへ。鉱物関係者なら誰もが認めるアリゾナ大学併設のジェム&ミネラル博物館が、ツーソンの中心部にある歴史的な建物へと場所を変えてリニューアルオープンしたのだ。

多くの著名コレクターたちが標本を寄贈したり貸し出したりしており、例えば、横幅60cm近くもありながら結晶の一つ一つが美しいスティブナイトの標本にはThe Arkenstoneのロブさんの貸し出しクレジットが表記されていた。そのほか、日本産ロードクロサイトの展示や、鉱山内の様子をわかりやすく模した展示、タッチパネルで鉱物に関する様々なデータを検索できるコーナーなどもあり、ビジュアルで直感的に学べる工夫が多い展示だった。

Fine Minerals International

今回の旅の締めくくりで
ついに憧れの標本を手に!

そして、今回の旅の仕上げは、Fine Minerals Internationalの専用ギャラリーへ!数ある鉱物商の中でも、特にハイエンドな標本を多く扱う業者で、それゆえに素晴らしいクオリティとサイズのものが揃う。母岩付きの高さ50cmを超える巨大なトルマリンの結晶は、トルマリンの人気産地であるブラジルの鉱山のもので、この驚異的な標本がガラスケースにも入らずむき出しで展示されていた。

応接室には、巨大なトルマリンを輪切りにして、それをバックライトで照らしたディスプレイもあるなど、やはりどこか一味違うディーラーなのだ。最高の発色や透明感、光沢、そして、欠けの一つもない標本が欲しいと願ってしまったときに、ここが一つの到達点となる標本を持っていることが多い。

私はロードクロサイトのコレクターなのだが、4年前にここで出会った標本がずっと頭から離れずにいた。その憧れの標本を今日、ついに受け取ることができるのだ。このギャラリーでハイエンドな標本を受け取る際は、オーナーのダニエルさんがアイコニックな巨大金庫から取り出してくれるのがお約束。そして、「お買い上げありがとう」ではなく「おめでとう!」という、これまた標本引き渡しの際のお約束の一声をかけてもらい、無事憧れの標本を手にした。

『ツーソンショー』Fine Minerals International 会場内
旅の締めくくりは念願の標本をお迎えに!

そんなこんなで駆け足の全日程が終了した。渡航時は、まだ帰国時の隔離期間が14日間あり、ギリギリまで行くか悩んだのだが、やはりツーソン・ショーはいつ訪れても後悔しない素晴らしい経験と標本を与えてくれる、最高の場所であった。