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園子温と染谷将太、歳の差の友情。親しき仲にも緊張感あり

当然、仕事の上では監督と俳優という間柄。初めて顔を合わせたのは映画『ヒミズ』の時だから、まだ2年にも満たない付き合いだが、なぜか人生の大きな節目にお互いが立ち会ってきた。役者とは仲良くならないことを信条にしてきた園子温監督と、彼によって人生を変えられた染谷将太さん。型破りな作風から異端児と呼ばれる映画監督と、若くして天才と世評の高い俳優との奇妙な縁で結ばれた交友関係とは。

Photo: Kenta Aminaka / Text: Yusuke Monma / Styling: Mitsuru Kurosawa / Hair&make: Amano

映画界の異端児と若手の天才俳優
年の差を超えたその付き合い方

園子温

たいてい映画がクランクアップした後は俳優と疎遠なんです。でも、染谷くんはうちに遊びに来たこともあったしね。これまで仕事をしてきた俳優とはまったく違う関係なんです。

ヴェネチア国際映画祭(*1)で染谷くんと二階堂ふみの2人がマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞した時も、すぐに会場から東京の染谷くんに電話をしたよね。

染谷将太

授賞式の最中に、ヴェネチアから電話がかかってきたんです。いかにも平然を装った「いま何してるの?」という電話が(笑)。

でも、既にネットで結果を知っていたので、興奮して「ありがとうございます!」と答えたら、「え?なんで知ってるの?」って。

その時は僕が驚いてね。いまはそういう時代なんだって(笑)。

でも、受賞結果をそうやって電話で伝えたくなることなんて普通はないですから。ヴェネチアで妻(神楽坂恵)とのお祝いをしてくれたのも染谷くんだったし。

染谷

たまたまそういう節目に立ち会ってるんですよね。

その時、レストランで僕と奥さんの写真を撮ってくれて、額装したものを二階堂と一緒に結婚式で贈ってくれたんです。いまも家に置いてあるけど、そんな関係の役者はほかにいませんからね。距離感で言えば、町内の近所付き合いに近い(笑)。

映画監督・染谷将太、俳優・園子温

監督と役者の距離は
ただ近いだけではダメ

染谷

『ヒミズ』(*2)のオーディションで最初にお会いした時は、緊張して顔も見られなかったんです。園さんにまつわるいろいろな噂が独り歩きしていたので。

どんな噂?

染谷

「とにかく厳しい」とか、「小便入りのビールを飲まされた」とか。

それは嘘(笑)。

染谷

でも、その時の園さんはずっと下を向いていて、無表情で黙っていたので、やっぱり得体の知れない監督だなと思ったんです(笑)。

自分に興味を持っているのかすらわからなかったし。その後、撮影現場で話をしていくうちに、どんな人か次第にわかっていって。

意外と真面目だったでしょう?

染谷

かなり真面目な方だと思いました。『愛のむきだし』(*3)や、『冷たい熱帯魚』(*4)のイメージも強いせいか、よく“映画界の異端児”と呼ばれますけど、異端児である以前に常識的な方だなと。

ただ、噂が独り歩きするのもいいと思いますけどね。幻想がなければ、独り歩きすらしませんから。

染谷くんはオーディションの時からその世代では突出していて、逆に突出しているのが気に食わなかったんです(笑)。だから、途中までもっと伸び悩んでいるやつを探していて。

結局はやっぱり断トツで染谷くんなんですよ。映画の知識も半端ないものを持っていて、その時も、「シャブロルが……」とか言っていた。その頃っていくつ?

染谷

18歳ですね。

18歳だったらせめてゴダールかトリュフォーにしとけよって(笑)。

普通はこの年齢の人と会話が成立することなんてないんですけどね。染谷くんは、僕がこれまで観てきた映画の話にもついてこられる。

しかも、そういうマセたガキはたいてい小賢しいことを語りだすんだけど、染谷くんは頭が柔軟だから、そういうことがない。大人なんだよな。

染谷

最初は名前を覚えてくれなくて、ずっと別の名前で呼ばれてましたけどね。役名の住田と染谷が混じった「住谷」って(笑)。

二階堂のことは、なぜか「真行寺君枝」って呼んでたんだよな(笑)。

ただ、僕は役者に「自由にやってください」って言うから、自分の自由を使い切れる役者でないと、僕の映画を遊べない。

染谷

「自由にやれ」と言われた時は、どういうことだろうと思って困りました。つかめてきたら面白かったですけど。

才能のある人は返せるんです。手取り足取り教えなくても、染谷くんからはきちんと戻ってくる。『ヒミズ』の現場ではシビアにやりましたけど、いまはもうどれだけ褒めちぎってもいいと思ってますね。

染谷

ただ、ダレた関係ではないと思うんですよ。役者と監督の関係は何とも言えない関係だと思っていて、園さんとも親しいとはいえ、やっぱり緊張感がある。そういえば、最初に「お前とは仲良くならないから」って言われましたよね。

もともとは親しくならないように、残酷に距離感を作っていたんです。撮影が終わった後、顔も見たくないと思われてもいいから、作品だけは輝かせる。それが結果的に、役者を一番大事にすることだと思っているので。

監督と俳優が、現場で親しくワイワイガヤガヤするのは気持ち悪い(笑)。

染谷

その距離感でなければ『ヒミズ』みたいな芝居はできなかったでしょうね。もちろん信頼関係があってこそで、だから役者はみんな園さんと一緒に仕事をしたいと思うんです。

そうすることで、役者の人生も変えてしまうんだから。まんまと僕の人生も変わりましたしね(笑)。

『ヒミズ』はそういう不思議な関係を作った映画なんです。ほとんどの俳優とは現場で燃焼しちゃうから、もう10年くらいは一緒にやらなくていいやと思うけど、染谷くんとはすぐにでも一緒に映画を作りたい。

もしかしたら、年齢差があまりにすごいので、一周して友達になれたのかもしれないよね(笑)。

映画監督・染谷将太、俳優・園子温

もし相手のために映画を
オススメするとしたら?

さて、もしお互いに友達として映画をオススメし合うなら、どんな作品を挙げますか?

染谷

うーん、好きな映画を挙げるのって困るんですよね。「あなたのベストは?」って聞かれても、いつも挙げられない。

僕がよく挙げるのは、ポール・ヴァーホーヴァンの『ルトガー・ハウアー 危険な愛』(*5)。

周りにバカにされながら、それでもずっといい映画だと言っていたら、数年前にオランダの映画評論家が選ぶオランダ映画の1位にこれが選ばれていた。こんな映画を選ぶなんて、オランダ人はよっぽど変態だなと思ったけど(笑)。

染谷

ヴァーホーヴァンと園さんは近いって言う人もいますよね。ちなみに『アメイジング・スパイダーマン』(*6)は観ましたか?

最近、スーパーヒーローものが大流行りだけど、嫌いなんだよね。あんなやつらいったいどこにいるんだよと思って、全然面白くない。

染谷

でも、『アメイジング・スパイダーマン』は、『(500)日のサマー』のマーク・ウェブが監督していて、スパイダーマンがダメダメだしリアルなんです。

サム・ライミ版は、スパイダーマンになると超人じゃないですか。でも、マーク・ウェブ版は、子供を助けた後に「ハアハア、アイム・スパイダーマン……」って息を切らしている(笑)。

なるほど、ちょっと観たくなった。最近観たアメリカ映画の中では『ウィンターズ・ボーン』(*7)が一番よかったな。主人公の少女が置かれた境遇がすさまじいんだよね。僕の青春時代も地獄だったから、最近の日本映画が描く青春はゆるく感じるけど、この映画は地獄の具合が半端じゃない。

あと、確実に観ておいた方がいいのは、カサヴェテスとかグラウベル・ローシャ(*8)とか。でも、古典はだいたい観てるでしょう?

染谷

そんなこと全然ないですよ。

だったら、ファスビンダーの『ベロニカ・フォスのあこがれ』(*9)と『13回の新月のある年に』かな。

ファスビンダーは最初に観た時の衝撃が忘れられない。映画を観ることに関しては小学生時代がピークで、30〜50年代くらいの洋画はすべてスタッフまで細かくメモって観てたんです。ジャン・ギャバンの『望郷』(*10)は?

染谷

ああ、観てないです。

30年代のフランス映画って隠れた名作が多いんだよね。『望郷』は小学1、2年の頃に観てすごくよかった。30年代のハリウッド映画なら『モロッコ』(*11)もかなり面白い。シャブロルでオススメは?

染谷

遺作の、『刑事ベラミー』(*12)ですかね。

それは知らないなぁ。

染谷

ベラミーという、いい具合にダメな感じの刑事の話なんです。

ところで、お互いの最近の作品はチェックし合っているんですか?

染谷

 『希望の国』(*13)は観ました。これまでの園さんとは明らかに違う捉え方で作られた映画で、すごく新鮮だなって。名シーンだらけの映画ですよね。

『ヒミズ』が“動”だとしたら、『希望の国』は“静”の映画。やっぱり園さんは突出したシーンを作れる監督だなと思いました。なんか回し者みたいになってますけど(笑)。

僕は、染谷くんが何に出ているかは知っているけど、観て確認するのは過保護な親みたいで違うなと。いわば、僕の映画に出ていない期間は長い夏休みみたいなものなので、遊びに行ってこいって。

だいたい染谷くんがテレビに出ているのを観ると、プチッて消しちゃうんだよね。ほかの男とデートしてるのを見ちゃったような感覚で。

染谷

僕、元カノですか?(笑)

ある意味、友達を超えてるっていうことなのかな(笑)。