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名もなき良いものを詰め込んだ、理想の借り住まい

朝目覚め、ベッドで日の光に包まれる。手間をかけてランチを作り、丁寧に淹れたコーヒーで小休止。家にいる時間は最高の贅沢だ。リビング、キッチン、ベッドルーム、レコードや本、家具と道具、住む場所と機能。いつもより長く家にいられるのだから、家について、ライフスタイルについて考えてみる。

Photo: Satoshi Nagare / Text: BRUTUS

「安い」の裏にある価値を認めて
他人に真似のできない暮らしを。

75平米の2LDKに、家賃12万円。ここが東京都内、山手線沿線ということを確認して、もう一度よく尋ねてみた。

「立て壊しが決まっていた3年間の定期借家で、1年半前に住み始めたんです。今はコロナの影響で予定が延びて、もう少し住めそうなんですけど」と家主の高島大輔さんは話す。「普通にネットで見つけた」というこの物件は築56年、東京オリンピックの翌年に建てられたマンション。排水管の不備や横揺れなど、気になるところに目を向ければきりがない。が、それを上回るくらい、高島さんにはこの家に惹かれるものがあった。

「もちろん価格も魅力でしたけど、古い家具が似合う、でも古すぎないちょうどいい家を探していて。備え付けの白塗りの扉や格子ガラスのデザインと造作が良くて、どこか西海岸っぽく、面白く思えたんです。友人を招いてもてなせる、広いダイニングも理想でした」

リビングの窓外には神田川。その上には首都高が走る。ベランダがないため、洗濯物や植物はここでよく日に当てる。ソファは大学卒業直後、仕事でいた仙台のリサイクルショップで購入した、思い出の20年選手。

ゆとりあるダイニングを手に入れてすぐ、8人掛けのテーブルを購入。いつも手狭なキッチンから、とっておきのスパイスカレーを仲間に振る舞う。8畳ほどのリビングは「20年以上、家で聴くのはレコードだけ」と語る高島さんが音楽をかける空間に。残りの一部屋は今春までセレクトショップに勤めていた高島さんと、妻の良子さんの服をたっぷり詰め込む衣装部屋兼寝室に充てた。

料理好きの高島さんの念願だった、大きなダイニングテーブル。左奥に玄関、右隣にキッチンがある。中央の羊のような椅子は〈ヒスト〉で一目惚れ。サーリネンのウームチェアは元職場の恩師から預かっている品。
衣装部屋。ラック裏にはベッド。旅をしたインドや国内の骨董市で買ったテキスタイルはまとめて吊り下げ。左の衣装箪笥はリサイクルショップ、「東南アジア料理店にあったのかも」という椅子は〈テンポス〉で。
リビングのレコード棚。ソウル、ハウス、テクノなど、高島さんが20年以上かけて集めては間引いてきた1,000枚から音楽を流す。棚上には各地で収集したオブジェがずらり。中央のシルクスクリーンは田名網敬一。

インテリアの大半は高島さんが選んだもので、そのほとんどが名もない中古家具。ダイニングテーブルも、椅子もソファも、国内の骨董市やリサイクルショップで手に入れたアノニマスだ。

「経年変化はお金で買えないし、いわゆるデザイナーズやヴィンテージじゃなくても、世の中には素敵なものがたくさん余っています」

ものを選ぶ時は「これに価値があるか?」と考えると何も買えなくなるため、「これを家のあそこに置くとどうだろう?」と考える。

「“価格が安いもの=価値が認められていないもの”にいかに価値を見出すか。どういうものかは、購入してから調べたり想像するのも楽しい。すっかりものが増えたので、次の引っ越しは大変かもしれません。でもその時にはまた、古くていい物件を探すと思います」