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一つ屋根の下で生まれる、ゆとりあるコンパクトライフ

朝目覚め、ベッドで日の光に包まれる。手間をかけてランチを作り、丁寧に淹れたコーヒーで小休止。家にいる時間は最高の贅沢だ。リビング、キッチン、ベッドルーム、レコードや本、家具と道具、住む場所と機能。いつもより長く家にいられるのだから、家について、ライフスタイルについて考えてみる。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: BRUTUS

空間を仕切るか、小屋を建てるか。
まだまだポテンシャルがある。

崖の上にちょんとのった家。爽やかな風が吹き、うらうらと日を浴びるこの小さな平屋があるのは、せともので知られる愛知県瀬戸市。名古屋の古着屋〈カーニバル〉店主の岩井俊之さんが妻の三希子さん、娘の橙子ちゃん、息子の文路くんと暮らす住まいだ。

「3年くらい前、ちょうど2人目の子が生まれた頃くらいから家を探しだしました。当初、この家は“狭いかも”と思ってキープして、ほかの物件に決めようとしました。でも契約がうまくいかなくなって、ここの内見を申し込んだんです。いざ来てみるとウェブサイトではわからなかった見晴らしや、家のつくりにやられてしまいました」

平屋が建てられたのは、遡ること半世紀ほど前。鉄骨屋を営んでいた前のオーナーの意向で、平屋には珍しい鉄構造が採用された。やがて空き家となったこの物件を気に入った不動産屋と建築家の佐々木敏彦が手を組んで全面改修。無駄な間仕切りは除き、もともとあった柱1本の鉄構造を生かしてゆとりを確保。さらに中心にやぐらのような2層の空間を設けて住まいを分節し、床面積を増やした。

平屋 インテリア ブルータス 居住空間学
63㎡の平屋、外壁はガルバリウム。街が見える北側にテラスがせり出している。写真手前には2段に分かれた庭があり、子供の遊び場に。
平屋 インテリア ブルータス 居住空間学
家の中心には2層に分かれたやぐらのような空間が各10畳ほど。夏場は手前のソファに腰かけ、眺望を楽しむ。奥の白い鉄柱がこの家唯一の柱。

「扉などのウッドワークは誰が手がけたのか不動産屋さんに尋ねたら、大学時代に妻が授業を受けていた木工作家の笹谷益祥さんで。ご縁を感じたのもありました。家の中心にある2層のスペースは下を寝室に、上を子供部屋にしています。だいたいリビングにみんな集ってますね。いつも下の子がやぐらの周りを走り回って、遊び場の多い家なんだと思います」

平屋 インテリア ブルータス 居住空間学
一日中煌々と日が差し、木の温もりに包まれる家族4人団欒の場。床から天井の頂点まで約4m。シルバーの椅子は結婚前に訪れたパリの街角で妻の三希子さんが目にして憧れ、日本で購入したトリックス社のもの。

家の隅々にはネイティブアメリカンのフォークアートやメキシコのウッドカービングなど、岩井さんが古着の買い付け先から持ち帰ったものがずらり。陶芸を学んでいた妻の三希子さんは温もりを感じる陶器や北欧家具をよく選ぶ。2年前には家族でへルシンキのアアルト・ハウスを訪れ、「ここと同じ家具を置きたいね」と夫婦で意見が一致。結婚10年の記念にアアルトのアームチェアを購入した。

「ものの配置を変えたり、手を加えられるちょっとしたことで僕らの家にしていけたら。庭にもスコップ一本で緑を植え始めました。子供が大きくなったら、部屋を仕切るか、庭に小屋を建てるか。家族4人で好きに楽しみながら、一緒に成長していきたいです」