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大喜利的に楽しむリメイク映画ビフォーアフター。〜後編〜

これまでに数多くの映画監督がリメイク映画に手がけてきた。 その意図とは何なのか?ライムスターの宇多丸さんが語る。

Text: Keisuke Kagiwada

宇多丸監督作?
リメイクするならこの映画。

え、自分がリメイクするならですか?難しいな……。
かなり蛮勇の部類ですけど、ヒッチコックの『めまい』ですかね。映画史上トップクラスの名作ですけど、描かれているのは男性が女性を支配する社会構造、その救い難い病的さです。

我々が愛だの恋だのという美辞麗句のもとにしている醜い支配が、いかに破滅的な結末を招くかっていう話なので、そのあたりに現代的な再解釈のしがいがあるかなと。あれを逆説的ではなくストレートなフェミニズム的メッセージに読み替えたら……やー、それじゃ説明過多なだけか。

じゃあ、『野獣死すべし』なんてどうでしょう。大藪春彦の同名原作は5回くらい映画化されているはずですが、一番有名なのが松田優作が主人公を演じた1980年版。原作の主人公は戦争を体験して虚無的になったという設定ですが、優作バージョンは今で言うオタク的な造形にして、原作者を怒らせたんです。

とはいえ、あの作品はオタク的な青年と、室田日出男演じる大人が対立するという話で、そこに時代を感じる。こういうニヒリスティックな犯罪者を、ちゃんとした大人がいない現代において描くならどんな主人公像か?という方向性ならやりがいがあるかもしれません。

ただ、主人公役を誰にするかがまた悩ましい(笑)。柳楽優弥や池松壮亮なら完璧に演じられそうですが、それじゃあハマり役すぎる気もしますし。神木隆之介とかかなぁ。いくらなんでも非力っぽすぎかもだけど、そこをどうするか、というのも考えどころかも。

全く想像がつかない
スピルバーグのリメイク。

これから公開される作品で気になっているのは、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『DUNE/デューン 砂の惑星』です。あれも原作もので、映像化にはデヴィッド・リンチ版と、テレビシリーズ版があるのですが、リンチ版は物語をうまく語れてないけどビジュアルは強烈で、逆にテレビ版は原作に忠実だけどリンチ版のビジュアルに慣れた目から観ると味が薄い。

それを受けて、ヴィルヌーヴがどうするのか。お手並み拝見ですね。あとは、やっぱりスティーヴン・スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』ですよね。どうなるのか想像がつかない。『スタア誕生』のようにオリジナルに弱点があるならともかく、もとの『ウエスト・サイド物語』にそういうのってあるのかな。全く読めないので、楽しみです。おっかなびっくりではありますが(笑)。

リメイク映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
『ウエスト・サイド・ストーリー』2021年12月10日全国公開。©2020 20th Century Studios.

リメイク映画監督論。

設定、演出、ストーリー。オリジナルがあるからこそ際立つ、リメイク映画に発露する映画監督のエッセンスとは。

ブラッドリー・クーパー
『アリー/スター誕生』

オリジナルを含めた全4作中、最もロマンティックな本作。実際、主人公の男女が恋に落ちる瞬間を、本作ほどエモく描いている過去作はない。
見逃せないのは、男がケガをした患部を女が冷凍食品で冷やすシーン。これはラブコメ映画で繰り返し描かれてきた描写であり、今でこそ性格俳優のクーパーだが、若手の頃によくその手のラブコメに出ていた。
本作がかくもロマンティックなのは、その過去の経験が生きているからに違いない。

映画監督 ブラッドリー・クーパー
Stephen Smith / Sipa USA / Zeta Image

デヴィッド・クローネンバーグ 
『ザ・フライ』

クローネンバーグは、デビュー当時から“得体の知れない事情によって変質する肉体”をテーマに映画作りをしてきた。従って、『蠅男の恐怖』はいかにも彼らしい題材だと言える。
そのうえで、さらに自分の側に引き寄せるべく盛り込んだのが、得意技と言ってよかろうトラウマ級のグロテスク描写。かくして誕生したのが、誰が見ても明らかにクローネンバーグらしい思弁的スプラッター『ザ・フライ』である。

映画監督 デヴィッド・クローネンバーグ
Aurore Marechal / Abaca Press / Zeta Image

ジェームズ・マンゴールド 
『3時10分、決断のとき』

アクション、ラブコメ、ホラー、アメコミと、ジェームズ・マンゴールドはあらゆるジャンルを横断的に手がけてきた。すべてに共有しているのは、普遍的なテーマが描かれている点。
西部劇のリメイクである本作においては、開拓時代が舞台の歴史劇というよりも、ある種の神話として仕上げることで、“男とは何ぞや?”というテーマに肉薄している。
そこには現代において西部劇を撮ることの意義もまた、見出すことができるだろう。

映画監督 ジェームズ・マンゴールド
Photoshot / Zeta Image

ガス・ヴァン・サント
『サイコ』

オリジナルを完全コピーしたといわれる本作にも、“ガス・ヴァン・サント印”は見てとれる。
例えば、有名なシャワールームでの刺殺シーン。刺された女性がバスタブの縁にもたれて倒れるとき、オリジナルは上半身と下半身を別のカットで撮っているが、リメイク版は全身を俯瞰で撮っているのでとても素っ頓狂なのだ。
しかしそれは、ガス・ヴァン・サント作品によく現れる、“違和感”の演出として見ることができるだろう。

映画監督 ガス・ヴァン・サント
F. Sadou / AdMedia / Zeta Image