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大喜利的に楽しむリメイク映画ビフォーアフター。〜前編〜

これまでに数多くの映画監督がリメイク映画に手がけてきた。 その意図とは何なのか?ライムスターの宇多丸さんが語る。

Text: Keisuke Kagiwada

いいリメイク映画の条件とは何か?

それは撮り直す必然性が明確であること、そして、元の素材を生かしつつ、現代的にアップデートしていることだと僕は思います。最近で言えば、ブラッドリー・クーパー監督の『アリー/スター誕生』がその好例。

元になった『スタア誕生』は『アリー』を含めて4度リメイクされていて、最初の2作は名作ではありますが、今の感覚からするとオチに「ん?」となるんですよ。妻が夫を立てるって話なので。

その点、ウーマンリブを打ち出した3作目『スター誕生』を経由した『アリー』は、アーティスト同士の物語に焦点を絞ったことで、過去作の持っていた弱点にしっかりと向き合っていて、4作の中で一番素晴らしい。

リメイク映画『アリー/スター誕生』
『アリー/スター誕生』 ('18米)。Warner Bros. / Photofest / Zeta Image

デヴィッド・クローネンバーグが『蠅男の恐怖』をリメイクした『ザ・フライ』もそう。『蠅男の恐怖』で、なぜ頭がハエで体が人間のモンスターができてしまうかというと、物質転送装置に人とハエが一緒に入ってしまったからという理屈なんです。だけど質量的にもそれはおかしいでしょう(笑)。

そこを現代的にブラッシュアップして「人とハエのDNAが融合した状態」をシミュレートしてみせるというアイデアが素晴らしい。ジェームズ・マンゴールドによる『決断の3時10分』のリメイク『3時10分、決断のとき』も、現代的な解釈を加えた西部劇として構築した理想的なリメイク映画でしたね。

リメイク映画『ザ・フライ』
『ザ・フライ』 ('86米)。20th Century Fox / Allstar Picture Library / Zeta Image

知恵が絞られた
日本人監督のリメイク。

日本映画で言えば、入江悠監督の『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』。あれはかなり成功しています。韓国映画『殺人の告白』のリメイクですが、そっちは中盤からドタバタコメディっぽくなっていくんですよ。だけど、リメイク版は「殺人事件の犯人であると告白した主人公の真意は何か?」という、もともとあった骨子だけを使って、もっと気持ち悪い話にしていて感心しました。

『見えない目撃者』も、元の韓国映画『ブラインド』より断然いい改変がたくさんある作品でした。この2本は、予算がない日本映画でも、監督が知恵を絞れば海外映画のようなエンターテインメントができるんだと気づかせてくれたリメイクでしたね。

1人の監督がかつて撮ったものを、時代を経て撮り直すというパターンもありますよね。つまり、セルフリメイク。例えば、ヒッチコックは『暗殺者の家』を『知りすぎていた男』として作り直しています。

この場合、予算や技術的にやり切れなかったことを盛り込む、要はバージョンアップなんですが、それとはまた違う方向性のセルフリメイクをやったのが、大林宣彦監督の『転校生』と『転校生 ─さよなら あなた─』。男女の体が入れ替わるという設定だけを使って、全く違う話にしてしまった。

これはリメイクと言うよりリブートという方が正しいのかもしれませんが、異性同士の相互理解というテーマが、リメイク版では他者の生への責任の話になっているのでびっくりしました。

名作のリメイクには当然批判のリスクも伴いますが、例えば黒澤明の『椿三十郎』の森田芳光リメイク版。もちろん明らかにうまくいってないところもありますが、今観直すと、三船敏郎に比べてどこか頼りない織田裕二が要所でいい味を出しているし、何より、今で言うBL的なテイストが強調されているところに独自の魅力があったりします。白黒の時代劇など観ない今の人にその良さを伝えるため、という大義名分もあったわけだし。

リメイク映画『3時10分、決断のとき』
『3時10分、決断のとき』 ('07米)。Richard Foreman / Lionsgate / Photofest / Zeta Image

一方、個人的にあまり心が動かないリメイクの特徴としては、作り直さなきゃいけない何かを全く打ち出してないということが言えるのかなぁ。そもそも何のアップデートもしてないという。後は、新しい視点で語ってはいるけれど、それはそれで駄目なんじゃない?ってツッコみたくなる作品とか。そんなことに手間をかけるなら、新しい作品を作れよと思ってしまいます。

とはいえ、そもそもリメイク映画っていうのは何でも面白いとも思っているんです。観比べさえすれば、必ず何かを感じるはずですから。だからそう、リメイクは大喜利的に楽しめばいい。お題に対して、答えそれ自体はもちろん、どう答えたかも見どころなので。例えば、非常に評判の悪いガス・ヴァン・サントの『サイコ』。

キャストはもちろん違うし、カラーになっていますが、基本的にはオリジナルのヒッチコック版とほぼ同じことをやっています。厳密に言うと微妙に変えているものの、ほとんど同じ。最初は何でこんなことをしているんだろうと思いましたが、考えれば考えるほど面白いんですよ。

両者を比較すると、じゃあ、ほぼ同じことをしているのに、違ってくるとしたらなぜ?人は物語に還元して“映画の良さ”を語りがちだけど、同じ物語を同じ手法で描いたとしてもこんなに違うなら“映画の良さ”って何?ガス・ヴァン・サントは自ら生け贄となってそんな問いを発信しているんじゃないかという(笑)。

リメイク映画『サイコ』
『サイコ』 ('98米)。MCA / Universal / Photofest / Zeta Image