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ドキュメンタリー好き・毛利悠子(現代美術家)、忘れられないあのシーン。『ここに鐘は鳴る』

ドキュメンタリー好き、現代美術家・毛利悠子さんが「忘れられない、あのシーン」について語ります。

Illstration: Ryo Ishibashi / Text: Emi Fukushima

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仏教哲学者の鈴木大拙が
「I can't hear you verywell」
を繰り返すとき

2020年、サンパウロ・ビエンナーレで「I Can't Hear You」という作品を発表しました。広い空間を生かし、立つ地点によって聞こえ方が変化する音のインスタレーションで、サンプリングしたのが、仏教哲学者の鈴木大拙さんが、1959年にNHKで放送された番組『ここに鐘は鳴る』内で放った「I can't hear you very well」の声なんです。

番組自体は、90歳近い大拙さんのもとにゆかりのある人物が次々登場し、人生の歩みを振り返るもので、久しぶりすぎて教え子のことを覚えていなかったかと思えば、魯迅に会いに行ったときの思い出をワクワクしながら旧友と語る大拙さんの自由な人柄には、クスッとさせられます(笑)。

一方で、後半に突然差し込まれるのが国際電話のシーン。相手はアメリカ在住時に交流のあった帽子職人なのですが、通信環境が悪くうまくつながらず、大拙さんが「I can't hear you very well」を繰り返します。禅の思想を英訳し世界に広めた権威なので、当然英語は流暢。

にもかかわらず外的要因によって意思疎通できない様子が、映像を観た当時のコロナ禍の状況とリンクして。50年以上前の映像ですが、どこか禅問答のような普遍性もあって、不思議と心を掴まれました。

NHKの番組『ここに鐘は鳴る』イメージイラスト

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