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〈ノンネイティブ〉デザイナー・藤井隆行の居住空間。のびやかな気持ちにさせるリトリートハウス

自分にとって心地がよく快適な場所とは、どんな空間なのだろう。気持ちのいい場所で自分のペースで過ごす時間は、何物にも代えがたいものだ。2022年の居住空間学は「居心地のいい部屋」と題し、住まい手による魅力的な暮らし方を紹介する。借り受けた広大な敷地で実験を重ねる蒸留家の暮らし、温かみのある家具に囲まれたコージーな家、アーティストが暮らす自分自身と対話できる場所など、今年もほかのどこにもない暮らし方に出会った。懐深く、さまざまな物事の受け皿になってくれる居住空間は、なんて居心地がよく自由なんだろう。

photo: Yoko Takahashi / text: Akihiro Furuya / edit: Kazumi Yamamoto

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仕切りなくつながる
太陽がいっぱいの家

「第一印象ですか?みなさんが入ってきたときに感じたことと同じです。仕切りがなく、広々とした空間になんだか解放されて、のびやかな気持ちになったんです」

訪れる人の気持ちまで大らかにさせるこの家は、神奈川県葉山町の高台で、長者ヶ崎の海に向かって両手を広げるように立つ。リビングをトレースするように日が移動し、日中、明かりの助けを借りることもない。空間もさることながら、取り巻く環境もまたゆったりとしている。漠然と東京からの移住を考えていた藤井隆行さんだったが、一瞬で魅了された。

「この家は2代目の日本青年館の設計に関わった方の手によるもので、前オーナーは奥様と2人で暮らしていたそうです。空間構成にはそのことが強く影響しているんでしょうね。子供がいたらここまでシンプルな間取りにならなかったはずです。玄関とキッチンに手を入れた以外は、ほとんどいじってないです」

ダイニング、リビング兼プレイルーム、そして小上がりの和室と仕切りなくつながる共有スペース。家具などの配置によって、それぞれの機能を持つものの、一つの空間としてのつながりを見せる。その印象を一段と強くさせるのが、藤井さんによる“スタイリング”だ。

素材やトーンなどのグラデーションを意識して穏やかに変化させる。ダイニングを彩るのはピエール・ジャンヌレ、イサム・ノグチにジョージ・ナカシマと近しいテイストのプロダクト。そこにマイケル・アナスタシアデス、ピーター・アイビーなどのモダンな照明を配置。まさにエスプリの効いた服のコーディネートのよう。

「本業の服も一点ものより、スタイリング、つまり組み合わせで見せたい部分が大きい。家もそうありたいのです。例えば、吉田璋也のスタンド、これは河井寬次郎記念館にあったもので、そういえば小津映画にも出てくる。こんな感じに系統立てて掘って、コーディネートしていくのが好きなんです。

意識も空間もグラデーションのように、馴染ませたい。だからテレビもあえて置かず、プロジェクターを使用しています。テレビは家の中心を作ってしまいますから。つまり仕切ることがあまり好きじゃないんでしょうね」

静かにつながる家。それこそが藤井さんが求める居住空間なのだろう。

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