仕切りなくつながる
太陽がいっぱいの家
「第一印象ですか?みなさんが入ってきたときに感じたことと同じです。仕切りがなく、広々とした空間になんだか解放されて、のびやかな気持ちになったんです」
訪れる人の気持ちまで大らかにさせるこの家は、神奈川県葉山町の高台で、長者ヶ崎の海に向かって両手を広げるように立つ。リビングをトレースするように日が移動し、日中、明かりの助けを借りることもない。空間もさることながら、取り巻く環境もまたゆったりとしている。漠然と東京からの移住を考えていた藤井隆行さんだったが、一瞬で魅了された。
「この家は2代目の日本青年館の設計に関わった方の手によるもので、前オーナーは奥様と2人で暮らしていたそうです。空間構成にはそのことが強く影響しているんでしょうね。子供がいたらここまでシンプルな間取りにならなかったはずです。玄関とキッチンに手を入れた以外は、ほとんどいじってないです」
ダイニング、リビング兼プレイルーム、そして小上がりの和室と仕切りなくつながる共有スペース。家具などの配置によって、それぞれの機能を持つものの、一つの空間としてのつながりを見せる。その印象を一段と強くさせるのが、藤井さんによる“スタイリング”だ。
素材やトーンなどのグラデーションを意識して穏やかに変化させる。ダイニングを彩るのはピエール・ジャンヌレ、イサム・ノグチにジョージ・ナカシマと近しいテイストのプロダクト。そこにマイケル・アナスタシアデス、ピーター・アイビーなどのモダンな照明を配置。まさにエスプリの効いた服のコーディネートのよう。
「本業の服も一点ものより、スタイリング、つまり組み合わせで見せたい部分が大きい。家もそうありたいのです。例えば、吉田璋也のスタンド、これは河井寬次郎記念館にあったもので、そういえば小津映画にも出てくる。こんな感じに系統立てて掘って、コーディネートしていくのが好きなんです。
意識も空間もグラデーションのように、馴染ませたい。だからテレビもあえて置かず、プロジェクターを使用しています。テレビは家の中心を作ってしまいますから。つまり仕切ることがあまり好きじゃないんでしょうね」
静かにつながる家。それこそが藤井さんが求める居住空間なのだろう。