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写真家・幡野広志のお金ルール「貯金は時間の無駄。今しかできない経験を銀行に預けるな」

「お金使わないって理解に苦しむんですよね。僕はローン組んででも、欲しいものがあったら買っちゃえばいいじゃないと思う方なので」開口一番、“貯めない派”宣言を表明した幡野広志さん。その心は?

Photo: Mina Soma / Text: Yuriko Kobayashi

貯金は時間の無駄。
今しかできない経験を
銀行に預けるな。

幡野広志(写真家)

「例えば80万円のライカのカメラが欲しいとします。人によりますけど貯金するのに1年か2年かかかるとして、その間の時間がもったいないと思うんです。金利が2〜3%くらいならローンで買って、すぐに撮り始めた方がいい。その方が技術も向上するし、2年間でいい写真を撮る機会だってたくさんあるでしょ」

幡野さんにとって買い物は、モノを通して経験や楽しみを得るためのもの。直近の買い物を聞くと、自粛期間中に車を買ったというから驚く。

「外出自粛期間中に車買ってどうするんだろう、この人って感じで、ディーラーさんも驚いてました(笑)。でも行動が制限されていた期間だからこそ僕はワクワクする時間が欲しかった。しばらく車で遠出はできないとしても、車を選んだり、納車を待つ時間はすごく楽しい。だからあえてその時に買ったんです」

お金を使うことで得られる心躍る体験の機会を、目的のない貯金によって喪失してしまうのはもったいない。実際幡野さんは何かあった時にしのげると思う一定額の貯金のほかは貯めずに使う生活を貫いてきた。

「コロナが流行し始めた時も、“貯金を切り崩さないように頑張ってます”という人がたくさんいたけど、緊急事態下で切り崩せないような貯金ってなんなんだろう。フレキシブルに使えないなら、ないのと同じ。だったら使って生活の質を上げる方が豊かじゃないですか?」

幡野広志(写真家)
自粛期間中に車を買い、転居もした幡野さん。「行き詰まった時こそ、お金でワクワクを買うんです」

こう断言するには自身の経験も多分に影響している。3年ほど前から難治性の血液ガンと折り合いをつけながら暮らしている幡野さん。人生の「万が一」の事態に遭遇した時、改めて貯金について考えさせられた。

「大きな病気にかかった人って、変な治療に騙されて貯金を使っちゃう印象が強いんです。いざという時のために貯めてきたお金なんだろうけど、その“いざ”に直面した時の使い方がすごくへた。それまできちんとお金を使ってきていないから、自分にとって本当に価値のある使い方がわからないんじゃないかな」

“貯める方が偉い”時代は
とっくに終わっている。

現在37歳。バブル世代の親からは「お金は使わず貯める方が偉い」と聞かされて育った。一昔前まで美徳とされていた概念が「自分の価値観に沿って正しく使う」という主体的な姿勢を奪ったのではと言う。

「価値観って人ぞれぞれで、1万円のボールペンが高いと思う人も安いと思う人もいる。一番厄介なのは自分にとってその対象がどれくらい価値があるのかがわからないこと。貯金も同じで、それをどんな時にどう使うのかを考えられないと、いざという時に役立てられなかったり、とんちんかんな使い方をしちゃう」

さらに“なんとなくの貯金”は将来損をするのでは?という意見も。

「セブンティーンアイスってありますよね、よくボウリング場の自販機で売ってるやつ。あれって僕らが子供の頃はたしか100円だったけど、今140円なんです。1年に約2%の値上がりですけど、これって日銀も認めている適正な物価上昇なんです。そう考えると今貯金しているお金は毎年2%ずつ金利が発生しない限りマイナスになる。もっとインフレが起こったら大損ですよ」

大切なのはモノや経験、それに対するお金について自分なりの価値観をしっかり持つこと、そして長期的なイメージを持って貯金をすること。それが幡野さんのマネールールだ。

幡野広志(写真家)

「僕自身が親からお仕着せのお金の教育を受けてきたので、子供には主体的にお金について考えられる大人になってほしいなと思っているんです。まだ4歳なので、今はお金をお菓子に置き換えて教えています」

普通なら子供の手の届かないところに保管するお菓子を、幡野家ではすべて息子に管理させている。

「この引き出しにあるお菓子はいつでも食べていいよと言っておくと、お菓子に執着しなくなるんです。さらに友達に分けてあげるようになって、独り占めしようなんて発想はない。これくらいあれば自分は安心できて、なんなら人に分けてもいいと思える。そんな彼なりの塩梅を身につけてくれたらと思うんです」

これからどんなふうにお金を使いたいかという問いに対しては、若いカメラマンに投資したいとの答え。「僕らくらいの世代ってお金には多少余裕があるけど時間がない。だから経験や楽しみを最短で得るためにお金を使う。でも若い人は時間はあってもお金がない。そこに投資すればどんどん前倒しで色々な経験ができるでしょ。各分野でそういう動きが進めば、社会全体を良くしていくことに繋がっていくと思うんです」