Learn

Learn

学ぶ

鉱物好きが憧れる、3人のミネラルディーラーたち

ツーソン・ショー探訪記にも登場した、3組の有名鉱物ディーラーを改めてご紹介。鉱物好きが憧れる人たちの歩み、そして業界を盛り上げる取り組みとは?

photo&text: Aya Muto

Fine Minerals International

選りすぐったファインミネラルを
鑑賞するためのハウスギャラリー。

「ツーソン・ショーは鉱物イベントの頂点。鉱物に関わる人にとって、とても特別な時期です。そんなショーで僕たちが営む〈ファイン・ミネラルズ・インターナショナル・ハウス〉は、スペシャルな時間を共有する場所でありたい」と話すのは、鉱物商の道20年以上のダニエル・トリンチロさん。

〈ファイン・ミネラルズ・インターナショナル・ハウス〉ダニエル

普段拠点としているニュージャージー州から出向いてショーに参加していたが、専用のハウスで展示・販売を始めたのは2001年から。ハウス全体にハイエンドの標本がちりばめられており、多くのファンが楽しみに訪れる。サムネイルサイズから壮観なミュージアムサイズまで、どの標本もダニエルさんが実際に見て仕入れたというお墨付き。祭典のように賑わうツーソン・ショーの中で、落ち着いた環境で世界中の標本が鑑賞できるオアシスのような場所になっている。

8歳で鉱物の魅力に目覚め、19歳の頃には現地に出向いて標本を買い付けるように。今では目利きの鉱物商として世界を飛び回る中、採掘のプロセスにも積極的に参加する。鉱員たちと顔を突き合わせて採掘オペレーションを学ぶ一方で、標本の美的観点からのアドバイスを彼らに理解してもらおうと、採掘機材の提供や安全な採掘のための技術トレーニングなどにも尽力している。

中でも特別なパートナーシップに恵まれたというブラジルのペデルネイラ鉱山(鮮やかなゾーニングのトルマリン標本で知られる)は、2014年に購入に踏み切った。その物語はアメリカの鉱物誌『The Mineralogical Record』に本人の執筆により1冊かけて紹介されていて、鉱物界の語り部としても信頼されている。

Crystal Classics

ヨーロッパ的な親密空間で
16,000点の標本に囲まれて。

「ここでどっぷり鉱物の魅力に浸かってください!」と共同オーナーのディアナ・ブルースさんに案内されたのは、2022年1月末にオープンしたばかりの〈ツーソン・ファイン・ミネラル・ギャラリー〉の一部屋。

落とされた照明の部屋には重厚な木製の棚がいくつも置かれ、何層にもなる引き出しには整理された標本がびっしり入っている。昔のヨーロッパの貴族たちが「キャビネット・オブ・キュリオシティ(驚異の部屋)」と呼んでいた珍しい収集物のショーケースが部屋いっぱいに並んでいるような様相は、息を呑むほど美しい。

「ちょうど今年は〈アルフィー・ノーヴィル・ジェム・アンド・ミネラル・ミュージアム〉もコレクションを拡張してリニューアルオープンしたばかりですし、年々大きくなるツーソン・ショーのお客さんが、ファインミネラル標本を手に取り、趣ある空間で体験できる場をと、このギャラリーを作りました」

地域別に分類されたショーケースや棚の一部を占めるのが、〈クリスタル・クラシックス〉が運営するイギリスの鉱山からのフローライト標本。「夫のイアンが2017年に新しい採掘を始めたディアナ・マリア鉱山は、実は私の名前から取っているんです」とディアナさん。

さらに2020年には、同じ年に生まれた娘さんにちなんだレディ・アナベラ鉱山の採掘が始まり、前事業を受け継いだロジャリー鉱山を含め、今では3つの直営鉱山を持っている。それらから産出する、シェリー酒のようなオレンジピンクやエメラルドグリーン、そしてパープルまでの、豊富なカラーバリエーションのフローライトを楽しむことができる。

〈ツーソン・ファイン・ミネラル・ギャラリー〉ディアナ

The Arkenstone

オークションを主催し、
ミネラル収集の未来を見据える。

「鉱物は、美がサイエンスに先立ちます」と断言するのは〈ジ・アーケンストーン〉のロブ・ラヴィンスキーさん。「西洋で鉱物収集が盛んなのは、昔から博物館に展示されていたからなんです。自然史博物館で子供の頃に見た、美しい石を記憶している人も多いのでは?」。

自身も11歳の頃、サイエンスミュージアムで石を買ったのが原点だという。「何億年も昔の地中活動から生まれた鉱物は、実は恐竜よりも古い地球の宝物。それをこうして実際に手に取って見られるって、すごいことだと思いませんか?」

〈ジ・アーケンストーン〉ロブ

そんなロブさんの転機は、ある本との出会いだった。「アメリカには年配の鉱物コレクターがたくさんいて、寛容に若い世代を受け入れてくれるというラッキーな文化があります。とある恩師が13歳の僕に『Gem & Crystal Treasures』(ピーター・バンクロフト著、1984年)という本をプレゼントしてくれました。この本を通して鉱物が化学、地理、人類文化史すべてを背負った世界であることに気づいたんです」

カルサイトの収集に始まり、アンテナは一気に世界へ。中国産の鉱物をいち早く取り扱い人気を博した。
「僕はインターネット黎明期に、独学で作ったウェブショップを毎晩いじっているような学生でした」と言うロブさんは、1999年から手がけるウェブオークションを、今年は初めてツーソン・ショー期間中に開催した。

どんなアートの世界にもオークション文化が存在するが、鉱物業界においてはこれまでほぼ皆無だったという。価値体系の形成と知識の共有を目指して、こだわり鉱物商の革命はこれからも続く。