西寺郷太(シンガーソングライター)
マイケル・ジャクソン、プリンス、ジョージ・マイケル、そして少年隊が僕の4大アイドル。歌も踊りも見た目もハイレベルで、“歌謡曲”史上、最高のグループだと思います。「ABC」は作詞・松本隆、作曲・筒美京平コンビの金字塔。少年隊は全員が20歳前後のデビューで、当時とすれば遅咲き。
「恋は最初じゃないのに めぐり逢うたびこわい」というフレーズを1行目で恋の相手の女の子の視点として歌わせるあたり絶妙で、アイドルが持つべきフレッシュさと大人っぽさをうまく言い表している。“ABC”という当時流行の表現を使ったセクシーな下世話さもいい。発売は1987年。マイケルが「BAD」を出した直後で、プリンス「アルファベット・ストリート」の直前。この連動性も偶然ではない気がする。
ANI(ラッパー)
『ザ・ベストテン』世代ですよ。特に1977年から82年までの歌謡曲に思い入れがあって。iTunesにはこの時代の曲がいっぱい入ってますよ。松本隆だと中原理恵「東京ららばい」とか寺尾聰「ルビーの指環」とか。暗い歌が好きなんですよ。大切なものは失ってわかる的な“あやまち系”。当時中学生だったからそういう部分に大人を感じてて。
森進一「冬のリヴィエラ」もそう。演歌歌手なのにド演歌じゃないポップスで、しかも大滝詠一のナイアガラサウンドだから明るくカラッとした曲、なんだけど別れの情景っていう。「外した指輪と酒の小壜」とか「アメリカの貨物船が 桟橋で待ってるよ」とか。大人になればこういう場面を経験すんのかなと漠然と思ってたけど、40過ぎても遭遇しないままですよ。
高田漣(ミュージシャン)
一年で最も好きなのがお正月。雑煮が好物で、元日は大好きな日本酒を解禁して、大好きな「春よ来い」を大音量で聴いて過ごします。リリースされたのは、ロックに日本語の歌詞を乗せることが当たり前でなかった時代。デビューアルバムの1曲目にして出だしが「お正月」って斬新すぎですよね(笑)。
続く「ものです」の音節がすごく長くて。初めて聴いた時は衝撃的でした。松本さんの意図なのか、大滝さんの歌い方なのか、そうした“引っかかり”がまさに、はっぴいえんどらしさ。歌留多のようなトラディショナルな言葉遣いと、当時最先端のサウンドが融合しているのも含め、音楽のいろんな楽しさを教えてもらいました。言葉が耳に残るロックって後にも先にも出てこないんじゃないかな。
権八成裕(CMプランナー)
僕が初めて夢中になった芸能人は中山美穂さんことミポリン。刺激的な『毎度おさわがせします』がドラマデビューで、主題歌はC-C-B「Romanticが止まらない」。イントロが鳴っただけで当時の思春期男子が内股になっちゃう松本作品の超名曲ですが、ミポリン自身の初期曲も松本作品が多い。ドラマ『ママはアイドル!』の主題歌「派手!!!」も「WAKUWAKUさせて」も「ツイてるね ノッてるね」も。
この“理性より本能”な哲学で貫かれたビビッドでキャッチーな歌詞群が多感な少年の人格形成にどう悪影響したかは謎。ちなみに「ツイてるね」て呟くと反射的に「ノッてるね」て返しちゃうやつがいまだいるし、何か見て「派手……」て呟くと元気一杯に「だね!!!」てレスポンスが返ってきます。嫁から。
中室太輔(プロモーションプランナー)
松本隆作品に出会ったのは小学生の頃。まずは宮崎駿監督作の映画から入ったんですが、そのサントラを買ったら劇中には出てこない、この曲が入っていて、すごく耳に残ったのを覚えています。歌詞にある通り、“やさしく抱きしめられる”ような純粋無垢な雰囲気が安田成美さんのフラットな歌声とすごくマッチしていて……。この曲がきっかけで声フェチになってしまいました(笑)。
声といえば、大学生の時に好きだった女の子とドキドキしながらした長電話。その時頭を巡っていたのが、大滝詠一さんの「君は天然色」。どちらも松本さん作詞。改めて感じるのが、歌って過剰な抑揚がないほど歌詞がダイレクトに入ってきて、その時の思い出とともに自分の胸に収録されるのだなと。
前田エマ(モデル、アーティスト)
曲との出会いは高校時代に名画座で観た一本の映画でした。『おと・な・り』という映画の劇中歌で岡田准一さんと麻生久美子さんが壁越しに「風をあつめて」を歌うんです。最初に聴いた時にはリズムが不安定でお経みたいな曲だなという印象。歌詞が全然聴き取れなくて、日本語を聴いているとは思えなかった。でもなんだか気になって見事にハマってしまいました。
「好き」とか「愛してる」なんて言葉は使わず、そこにある風景を描くことで感情が伝わる。松本隆さんの書く言葉は、まるで一枚の写真のようで、曲は写真集みたい。さまざまな風景が淡々と続いていって、最後は一つの物語になってる。松本さんの歌詞を聴く時の気持ちよさは、写真集をめくる心地よさに似ているような気がします。