ドレスウォッチとツールウォッチ。美しさと普遍性の間を楽しむ
江口大介さんのスタイルにおいて、実は時計は主役ではない。むしろアクセントとして捉えている。
「服装は比較的カジュアルなスタイルが多い。軍パンに〈カルティエ〉の『タンク』を合わせるような身に着け方が好きです。アンディ・ウォーホルやモハメド・アリのように、ドレスの文法を軽やかに裏切りたい」
サイズにも明確な基準がある。
「35mm以下が基本。1932年に発表された高級時計の代名詞である『カラトラバ』にならい、できれば33mmの自動巻きが理想です。小さくて薄い時計って、設計が精密で工芸品のような緊張感がありますから」
その象徴が、文字盤を反転できる〈カルティエ〉の「タンク レベルソ」。初めて見たとき、「これを超える時計にはもう出会えない」と感じたという。コレクションの約7割はドレスウォッチ、残りの3割はスポーツやデジタルだ。時計を着けない日もあえて設けて、自分の中でバランスを整えることもある。
「ドレスウォッチが好きなんですけど、どうしても金ケースが多くなってしまう。だからスポーツやデジタルも着けます。小さくて薄いドレスウォッチの工芸性と、ツールウォッチの機能性や普遍性。その2つの違いを楽しんでいるんです」

ツールウォッチへの思い入れは、自動車のレストアを生業(なりわい)としていた父親からの影響も大いにあるという。
「幼い頃から、父がジウジアーロってよく言ってたんです。だから〈セイコー〉からジウジアーロデザインで83年に発売されたデジタルクロノグラフの一本を手に入れたときは嬉しかった。機械的な造形にも惹かれるんですよね。
そしてスポーツウォッチの文脈で選ぶなら、〈ロレックス〉の『エクスプローラーⅠ』がマイベスト。もちろんほかのモデルも名作ばかりですが、オイスターケースを完成させたことこそロレックスの本質かなと。普通であることの美しさを最も感じられるモデルです」

時計を着けるときは、ジュエリーも欠かさない。金・銀・黒の3色を基調に、その日の服で組み合わせを替える。指に収まることが多いのは〈カルティエ〉の「ヌーベルバーグ」。「眼鏡もジュエリーと同じ」と言い、同デザインの金・銀フレームを使い分ける。かつてインディアンジュエリーを作っていたこともあり、トゥアレグのシルバーなど、民芸的なアクセサリーも等価に扱う。
「時計ってどうしてもお金持ちに見えがちなアイテムですけど、そうは見せたくない。父の整備工場は油まみれでしたけど、大人になって美術館でクラシックカーを見たとき、同じものでも見せ方でこんなに違うんだと気づいた。時計も同じ。どう見せるかに価値観が宿るなと。自分の店で時計をギャラリーのように並べるのも、自分が着けるときのスタイルも“どう見せるか”ということの延長線上にあるんです」
