ミニチュア・ダックスフンドのココア(♂)14歳とミルク(♂)8歳、そしてこの日は欠席したけれどラブラドール・レトリーバーのクロ(♂)6歳が氷川きよしさんの“子供たち”だ。ちょっとした大家族だけに、賑やかで楽しく癒やされるけど、気を揉むこともある。
「やっぱり、命ですから。命あるかぎり、守らなくちゃいけない責任がある。常に気が張った状態ですね。僕が倒れてしまったらダメだから、風邪もひかなくなりました」
中でも長男ココアへの思いは格別。
「僕が28歳のときに出会って。それからは喜びも悲しみもずっと一緒。僕の分身みたいな存在なんです」小学生のときに友達の飼い犬に嚙まれ、以来、犬は怖いというトラウマを抱えてきたという。が、26歳のとき、テレビ番組の企画でダックスと触れ合い、犬の虜に。その2年後、ココアと出会った。

「大阪で公演をやっていたとき、ホテルの近所のペットショップへ、何の気なしにブラっと入ったんです。そうしたら、いろんな仔犬がいる中、パッと目が合って。運命を感じました。これはもう、連れて帰るしかないなって」
犬との生活が始まり、暮らしぶりは一変、すべてがココア中心に。ただ、いつも一緒にいたいと思うものの、仕事場に連れていくわけにはいかず、ケージに入れて留守番をさせることもしたくない。そこでシッターに預け、仕事が終われば迎えに行くことに。大変だが、自分だけを信じ、寄り添ってくれる存在がいるのは何物にも代えがたい幸せ。なんでもない日々が愛おしく感じるようになったという。
「ココアがまだ幼かった頃、鎌倉へ連れていったことがあるんです。僕にとっても初めての鎌倉で、海沿いをずっと一緒に、ただひたすら歩いて。ココアが途中でダダをこねるから抱っこしたり(笑)。江の島の手前から富士山を見て、ものすごく感動したのをよく覚えていますね」
しかしその1年後、ココアが網膜萎縮症にかかっていることがわかる。
「壁にぶつかったり電信柱にぶつかったりよくするのでおかしいなと思って検査したんです。そうしたら、ほとんど目が見えてない状態でした。“全盲です”と。それからは、何が何でも守る、絶対に死なせないって」
ココアの体調を気遣い、体に良いといわれるものはなんでも試してみた。「この子のために尽くしたい」という「母性」のようなものがあふれ出るようになったという。そしてココアが8歳になったとき、同じミニチュア・ダックスのミルクを迎えることに。ココアのサポートメンバーになってもらいたいという気持ちもあったが、ミルクもハンデを抱える犬だった。
「睾丸が片方だけ体の中に入ってる病気だったんです。ああ、この子も僕がめんどう見なくちゃって。苦労を抱えていると応援したくなるじゃないですか。だから、捨てられた犬を見ると全員どうにかしたくなる。みんな育てたくなっちゃう」

話せないからこそ
心と心で繋がっている
オフのときは、“子供たち”と一緒にソファでくつろぎ、夜は一緒にベッドに入る。それが氷川さんの至福のとき。犬は家族」と、犬を愛する誰もが言う。でも、氷川さんにとってはそれをも超えた、心と心で繋がる関係になっているという。
「最初は永遠の子供という感じがしていたんです。でも、言葉が使えない分、人間よりも感受性が強いなって。僕の機嫌がいいと甘えてくるし、悪いとパッといなくなる(笑)。目の見えないココアは、僕が悲しいときは顔を舐めてなぐさめてくれたりもするんです。涙の味がしょっぱいから舐めるだけなのかもしれないけれど(笑)。
ふとした瞬間、ココアのことを思うとつい泣いちゃうんですよね。いつか来る別れを想像するだけで涙が出てきて。今は年をとってゆっくりとしか動かないし、耳も遠くなって嗅覚も弱くなった。ほとんど直感だけで生きているんです。でも、それでも生きてる。絶対に負けない。負けずに生きる姿を僕に見せ続けてくれているんです」
