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平松洋子

淡い連帯/喫茶店の守護神|平松洋子

 ほとんど毎日、住んでいる町のどこかの喫茶店に寄る。仕事の合間、休憩を兼ねて散歩に出るのが習慣なのだが、さて今日はどこに入ろうかと自分の気分を探りながら歩くのがまた楽しい。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
 十年一日のごとく同じ挨拶だけれど、交わす一瞬の視線にぽっと灯りがともり、言外にお互いの元気を確かめ合う。でも、それ以上のことは何もない。マスターが淹れてくれる熱いコーヒーを相手に、ただぼんや

華やかさと日常を結ぶ「おやつの味」がするケーキ。|平松洋子

 学生時代に初めて訪れてから40年近く。サヴァランというお菓子を初めて食べたのも〈こけし屋〉さんでした。サヴァラン専用の、ラム酒とシロップを染み込ませるための粗い生地を使って、トップに生クリームとカスタードクリーム。ほんわり軟らかいのに、ぴちっと決まっているこの味がすごくいいんです。洋酒を使った洋菓子って、お酒が非日常的で華やかな存在だった時代の、新しいものを取り入れるエネルギーや夢を感じさせてく

家庭の味を食べる、みんな食堂。|平松洋子

日本各地を巡り、その土地を支える「食」を食べ、味だけでなく地域の歴史や風景、匂いや食感まで実感を込めて鮮明に伝えてくれるエッセイストの平松洋子さん。地域と食という、地域再生に欠かせない2つのキーワードで、平松さんが廃校をプロデュースするとしたら?

 全国で子供の貧困対策として「こども食堂」が広がっていますが、過疎の村では、高齢者の一人暮らしが案じられています。せっかく廃校が使えるのなら「みんな食

名代とんかつ かっぱの名代とんてい

 バリッと揚がった名代とんかつ。せん切りキャベツの小山を従えて威風堂々。皿の上の勢いがとにかく違う。ちらり、きつね色の衣の下から見えるロース肉の顔つきもたまらない。とろーっとたっぷり、艶っつやのデミグラスソースの海。右手にナイフ、左手にフォークを握ったまま見入ってしまう。ひと切れ噛みしめたら、もう止まらない。〈かっぱ〉の嵐に巻き込まれて突っ走る。
〈かっぱ〉に惚れている。実家のある倉敷に行くとまず

果物でも本でも、思いついたものを入れてみる。|平松洋子

 モダンデザインの家具と、明治期の水屋箪笥や李朝の壺が、当たり前の顔で隣り合うリビング。エッセイストの平松洋子さんは骨董好きとして知られるが、その楽しみ方は実に自然体だ。
「この手水鉢は20年以上前に手にしたものです。日本の生活雑器ですが、フランスの田舎を思わせる雰囲気がありますよね。口の広い鉢はなにかと物入れに便利で、うちでは買ってきた果物をポンポンと入れています」
 無造作に床に置かれたおおら

工夫して使うのが良い、〈長谷製陶〉伊賀焼の土鍋。|平松洋子

 これまで数々の土鍋を試してきましたが、ここ10年はもっぱら〈長谷製陶〉伊賀焼の《かまどさん》。長年愛用の3合炊きに、1年半ほど前から1合炊きも加わりました。ご飯は、米粒が対流に乗りポコポコと動くことでふっくら炊き上がるのですが、この土鍋は、対流を促す丸みを帯びた理想のカーブ。内蓋付きで圧力がかかり、2つの気穴が余計な蒸気を逃がしながらお米をむちっと炊き上げます。良質な生活食器をたくさん作ってきた

CH33 CH33(1957)/ハンス・J・ウェグナー|平松洋子 エッセイスト

 私にとって椅子はやはり「腰かけていることを忘れさせてくれる」くらいのものがいいんです。目立たず、空間にすっと溶け込むというか。その意味で、木という素材は四季のある生活の中で最も違和感を感じさせない素材だと思いますね。レザーだと日本の夏ではべたべたしがちだし、金属だと冬は座った瞬間に冷たさを感じてしまう。その点、木は中庸というか。掃除や手入れもしやすいから、日常的に使いこなしていける。北欧の家具が

モンティーの「ラープガイ」|平松洋子(エッセイスト)

 タイ語が描かれた色とりどりのステッカーに、キッチュなテーブルセット、巨大な扇風機。まるでバンコクの街角のように見えるここは、日本最古の地下街、浅草地下商店会の一角にあるタイ料理店〈モンティー〉の店先。お気に入りのラープガイを前に、平松洋子さんのテンションも上がる。
 食文化と暮らしをテーマに、長年アジア各国を取材してきた平松さんにとって、タイ料理は興味の尽きない題材。他国に比べて、非常に特徴的だ