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新潮文庫

読書家6人が“古典”に見つけた、道なき時代の標。

 都会の窓から見えるのは不動のコンクリートばかりで、だから揺れているものを見たくてしょっちゅう散歩に出かけた。時に娘と、たいていはひとりで。目黒川の水面におどる春の光、次々と吹き出す桜の青葉、それらを揺さぶるつよい風。手に入れた感覚の宝ものをなんとか言葉に残したくて、家に帰りあわててパソコンを開いた時にはもう、光も葉も風も静止している。この部屋で動くのは、ゴムまりみたいに弾む3歳の娘だけ。

「宝

【8月22日公開】池松壮亮が、千松信也の生き方に触れて感じたこととは?|『僕は猟師になった』

8月公開のドキュメンタリー映画『僕は猟師になった』の主人公は、わな猟師の千松信也。京都、田舎と都心の中間部に居を構え、週に数日は運送会社で働きながら、あとは生活に必要な分だけ鹿やイノシシを獲って暮らしている。本作の語りを務めたのは俳優の池松壮亮。作品を通して繋がった2人が、邂逅を果たした。

犬、まかふしぎな生き物

 人間にとって犬は、最も古くからの伴侶であり、かたい絆で結ばれた存在だった。

 犬はときに種を超えて、人間に無償の情愛を差し出してくれる。ホメロスの古代叙事詩『オデュッセイア』の時代にはすでに、ぼろぼろの身なりで帰還した男こそ、長年待ち続けた主人だとすぐに見抜く老犬アルゴスが描かれる。この揺るぎなき忠誠心に魅せられ、ひとは犬にまつわるあまたのテキストを書いてきた。

 犬と人間では、かなしいかな

【2月27日発売】ポール・オースターによる新作長編小説『サンセット・パーク』を翻訳家・柴田元幸が語る。

『鍵のかかった部屋』や『ムーン・パレス』などで知られ、1980年代以降のアメリカ現代文学を牽引する小説家、ポール・オースター。2010年に刊行された『サンセット・パーク』の邦訳版が、この2月、晴れて発売される。大不況に見舞われた2008年のアメリカを舞台に、ブルックリンの廃屋に暮らし、未来を模索する4人の若者の葛藤と再生を描いた物語だ。

 注目すべきは、章ごとに視点が入れ替わる構成。「作者が60

小川洋子『薬指の標本』のわたし

名前:小川洋子『薬指の標本』のわたし

症状:彼のまわりにも、まだたくさん活字が残っていた。彼の足元でわたしは、無防備な小動物になってしまったような気分だった。

備考:飼っていた文鳥の骨、楽譜に書かれた音、やけどの跡など、思い出の品々が持ち込まれる標本室。その主とわたしの静かで奇妙な愛の情景を描く。新潮文庫/430円。

奇妙な生き物たちを愛し、異形に愛される作家が編む、誌上アンソロジー。

「根底では、異質な他者との出会いを求める気持ちと拒絶する気持ち、警戒、恐怖と興味がない交ぜになって蠢いているのではないでしょうか。他者の向こう側に潜む未知の世界には妄想をかき立てられるし、そこには潜在意識の投影という屈折を経て出会う、まだ見ぬ自分自身がいるかもしれない。同時に、日々生きている実感が摩耗していくような今の社会にあって、自分以外の生き物の存在を通して失われた実感を取り戻そうとしているの