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戌井昭人

「本当に欲しいものは無いので なんでもください」

ボールが的に当たったらイチゴをください。的に入らなかったら他のものでもいいです。でも何かください。頂けるものなら何でもいただきたいのです。子供の頃から、いろいろと頂き物をしてまいりました。その中には、欲しかったものもあったけれど、別に欲しくなかったものもあります。でも、頂けるということは、なんであれ嬉しいものです。だから、何でもいいからください。いつでもなんでも募集中。現在はイチゴを所望中。

「おい、まだ飯食ってるのか」

 怒ってるぞ、この上なく怒ってる。あんだけ言ったのに、お前、また同じじゃないか、舌をペロペロやって、とぐろを巻いて、なんの進歩もありゃしねえ。もっと考えたらどうなんだ? ワシは、今日も牙を研いでから石を噛み砕き、泥水を飲んで、屋根の上から三回転げ落ちるといったトレーニングをしたぞ、満身創痍ってやつだ。それに比べてお前さんは、あいかわらず、まだ食事中だ。とっとと飲み込んじまえ、食事終わらせろ。話はそ

「吸うか吸われるか、 そんな世の中だ」

 煙まいあがる空の下、囲いの中に、泥にまみれた男がいるよ。煙は臭くて苦い、世間が嫌がっている。けれども、シャツがしわくちゃになった男がいるよ、手のひらが冷たくなった女がいるよ、ギャンブルに負けて路頭に迷っている男がいるよ、疲れたけれど働きに行かなくちゃならない薄着の女がいるよ。ココの皆さんは、空を見上げることも忘れ、ひたすら煙を吐き出している。燻された木の枝が面倒臭そうに「おつかれさま」と囁いた。

「狙いは外せないのよ」

 ホラそこ、そこズレてるよ。真っすぐにしておくれ、ホラホラ駄目だよ、間をあけないで、もーすこし右だ、いや左か? オイ、ちょっと行き過ぎちまったぞ、ちょいと戻せ、うん、そうだそうだ、そんな感じで良いんじゃねえのか。よっし、そんじゃあ今から、いったんグインと縮むんで、それから、ビヨーンと伸びて、飛んでいくから、でもって、ガブッと噛みつくぞ、そしたら、もう離さないぞ、絶対に離さないんだからなオレは、そう

「いなたいタイヤは いまも現役タイヤだよ」

まわるタイヤ、まわらないタイヤ。太いタイヤ、細いタイヤ。いかしたタイヤ、いなたいタイヤ。古いタイヤは公園で遊具になった。新しいタイヤは髭がある、威張り散らして環状線をまわる。小さな石を踏み潰し、アスファルトに黒い跡を残す。古いタイヤは赤いペンキを塗られたが直ぐに剥げてしまった。何個も積み重ねられ恐竜になったタイヤもあった。現役タイヤは目的があって転がるが、引退タイヤに目的なんてもんはないのだよ。

「眠れなすぎて、現実が夢になった」

まったく寝てないから目のまわりクマだらけでしょ、恥ずかしいよ。そうそう、俺のウロコなんだけどさ、これ3Dアートとかいうのになっているらしくて、この前、眼科の偉い先生が、やたら感心してたんだ。これを超える芸術はないよ とか言ってたけど。よく見てると、女の子が縄跳びしてる姿が浮かび上がってくるらしいんだ、でもよくわかんないよね、それに自分で見れないし、女の子が縄跳びって言われてもさ、微妙な気持ちだよ

「このレースは難しい展開になるぞ」

三車そろいました。ココは暗闇レース場、世界一難しいといわれているコースです。走り出したらすぐに暗闇、自分がどこにいるのかわからなくなり、さらにゴールが何処だかわかりません。ですから、それぞれガムシャラに走っていただき、偶然にもゴールに着いた者が勝者となります。1号車は黒住たけし秋田出身、2号車は黒田かんたろう岩手出身、3号車は黒沼じんすけ東京出身、さあ、暗闇に向かって漕ぎ出しましょう。

「はい、それ僕がヤリました」

正直者と嘘つき、でも正直ヅラをしたくてズケズケとデリカシーない事を言う奴、あれは駄目だ。僕は、あのような類とは違います。そんで今朝、校庭に濡れて書かれていた『UFO』という大きな文字、アレ僕がやりました。小便で書きました。朝、学校に来て驚いていた皆さま、屋上にのぼって確認していた先生方、すみませんでした。特に悪意はありません。僕は、皆さまに、すぐそこに危機があるってことを知ってもらいたかっただけな

「空にコブシを突きあげろい」

元気にやっておりますか? たぶん、おかわりないことと思います。しかしながら、あなた様は、熱き心でもって、激情、情熱、もろもろと、やりすぎるところが多分にありますから、いきりたって血管など切れてしまってないか、少し心配しております。それにしても、とにかく、きな臭い、嫌な感じの世の中になっておりますが、こんなときこそ、あなた様の憤怒でもって、世の中を変えていただきたいと思っておるしだいです。

「チリ散らばって事件なり」

赤いラインの先に、丸めた新聞紙を抱えた男が転がっていた。新聞紙の中には、焼芋が三本入っていた。一本は食いかけで、あとの二本は、まだ温かかった。つまり、事件が起きてから、たいして時間は経っていない模様だ。一方で、新聞紙の保温力が相当なのかもしれないという懸念が浮かんできた。ここは帰りに焼芋を買い、検証してみる必要がある。だが私は焼芋が苦手なのだ。仕方がない、芋は隣の婆さんに、おすそ分けだ。