
木の“名作椅子”を生んだ北欧の作家。
20世紀初頭から半ばにかけて、デンマークを中心に北欧は今では“名作椅子”と呼ばれる椅子の数々を生み出した。その多くは木の椅子でありデザイナーは自ら木工の技術を持った家具職人でもあった。コーア・クリントを筆頭にこの時代の代表的な作家を紹介する。
20世紀初頭から半ばにかけて、デンマークを中心に北欧は今では“名作椅子”と呼ばれる椅子の数々を生み出した。その多くは木の椅子でありデザイナーは自ら木工の技術を持った家具職人でもあった。コーア・クリントを筆頭にこの時代の代表的な作家を紹介する。
ウェグナーには、必要に応じて成形合板のパーツを取り入れた椅子も多いが、全体を成形合板で構成した椅子は珍しい。不安定になりがちな3本脚でもしっかりくつろげるのは、座面、背もたれ、脚部のバランスが優れているから。1963年の世相を反映しているのか、50年代の彼の椅子に比べてポップで未来的な印象も。木の椅子の進化に対して、巨匠がまったく臆していなかったことがわかる。
背もたれの上部はハンガーで、座面を開けると小物が収納でき、開けた座面にはズボンが掛けられる。ただし機能重視の逸品というより、ウェグナーが木工職人の技を見せつけたステイトメント的デザイン。背もたれの彫刻的なフォルムや複数の材の細かな組み合わせなど、随所にクラフツマンシップが発揮されている。寝室にこの椅子がさりげなく置かれていたら、そんな優雅なことはない。
Yチェアと並ぶウェグナーの代表作は、多くの工程で職人の手仕事が欠かせない。控えめで優美なフォルム、一分の隙もないジョイント、補強材の見当たらない難易度の高い構造。あらゆる点でデンマークの木の椅子の至宝と呼ぶにふさわしい。発表当初はJ・F・ケネディが大統領選の討論会で座り知名度を高めたが、近年はオバマ大統領とメドベージェフ大統領(当時)の会談に登場して話題になった。
あまりに有名すぎる木の椅子の傑作にして、20世紀の北欧家具の金字塔。ウェグナーが1944年発表のチャイナチェアのリデザインを繰り返した末、工作機械の活用を踏まえてこの形態に辿り着いた。アームと背もたれを兼ねる曲げ木のパーツなどにオリジナルの面影が残る。コストを下げる工夫を随所に盛り込みながらも、木の持ち味を生かし切るという点では一切妥協のないデザインだ。
ハンス・J・ウェグナーは1914年デンマーク生まれ。木工職人のバックグラウンドを生かし、木の椅子の名作を数多くデザインした。この椅子は彼の原点といえる一脚で、圏椅と呼ばれる中国の伝統的な椅子のリデザイン。背もたれ上部の笠木とアームを兼ねた馬蹄形のパーツは、後のウェグナーの椅子に多く見られる。成形やジョイントに職人の手仕事が欠かせない、北欧流の贅を極めた椅子だ。