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菅原

夜あるく木

「慰謝料よこしなさいよ」という段になり
「残念ながら金などないのだよ」というと
「そんなことはとっくに知ってらあ」と
最初の人は耳を引っぺがして持っていき
つぎの人はまぶたを
つぎの人は膝小僧を持っていった

それからというもの
私の名を呼ぶ声は聞こえず
どんな夜にも目を伏せることができず
棒になってしまった足を引きずりながら
緑道沿いの散歩に出るのだが
犬を連れた健康的な恋人たちを目にして
いま

とおくの女たち

いつだったか私の女になり、2016年には昔の女になり、2017年には誰かの女になり、2018年には誰かの妻になり、2019年は誰かのお母さんになっている。ただ淡々と、そんな風に過ぎていくことが骨身にしみるようになってきたなら、あらゆる責任から離れて生きるこの暮らしも少しずつくたびれてきているということなので、私は針と糸でつくろうのだが、いっこうに縫い閉じることができないでいる隙間風。

神戸のアトリエ

二階の部屋に置かれた
わずか五枚の絵のせいで
部屋の床はたわみ
底が抜けてしまいそうだった
試しに一枚を持ってみると軽いのだが
眺めていると いやに重ったるい

五枚のキャンバスに
閉じ込められているのは
同じ男の顔だった
南米、パリ、ローマ
スペインのラマンチャ
諸国を旅して 探して 見つけたのも
同じ男の顔だった

その後も男は自画像を描き続け
パレットの裏にひとこと書き残して
酒に酔った車の

ナイロビのコーヒー

高校時代、親元を離れて寮生活を送っていた。寮生の出身地は様々で、国内だと北は北海道、南は沖縄まで。親の仕事の都合で海外で育ち、ひとりで日本に戻り寮生活を送っている生徒も少なくなかった。そういった寮生たちのほとんどは、やってきた都市の名があだ名になっていて、ジャカルタ、ナイロビ、ロンドン、上海など、これらは全てクラスメートのあだ名だ。夏休みが終わると、それぞれに地元のお土産を配ったりする。隣の部屋の

世界が注目する段ボールアーティスト、島津冬樹の段ボール偏愛に菅原敏が迫る。

これまでに世界30ヵ国を巡り、街角に捨てられている段ボールを拾い、段ボール財布を作り出している“段ボールアーティスト”島津冬樹。彼の活動に迫ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が公開される。誰も見向きもしないような段ボールに恋した男の活動は、モノ・コトに新たな付加価値と循環を生み出すアップサイクルという観点からも、今世界中から熱い注目を集めている。同じように、不要になった小型冷蔵庫の扉をキ

「紙魚について」

ある日、友人のアトリエで本棚を物色して一冊の気になる本を取り出した。随分と古い美術書で、厚紙のケースに収められていた。本の背をつまみ、数センチほど本をケースから引き出したところ、銀色に光る、ぬるりとした虫が這い出してきて、私は声にならない悲鳴をあげた。「そんな高い声も出るのね」と冷静なコメントをした後に、「その虫、もう一度本の中に閉じ込めておいて」と友人は言った。

調べたところ、この虫は紙魚(シ