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文学賞

自分の存在を懸けた「本物の体験」とは何か。|服部文祥

 学生時代に山登りにのめり込んでしまった者が企業に就職して生きていくのは難しい。自分の命さえもてあそぶほどの自由を登山で知ってしまうと、時に滅私して組織のコマになり、人生を切り売りして、サラリーを稼ぐ生活がバカらしくなってしまうからだ。一方で、子供の頃から所属してきた日本の社会を切り捨てて、仙人のように生きていく覚悟もない。
 20代の最初の頃、山登りに身を費やした若者が、自由を捨てずに生きていく

文筆家・星野道夫を語る|池澤夏樹

星野道夫が亡くなった後、彼の功績を伝えようと誰よりも役割を担い、果たしたのが、作家・池澤夏樹だった。星野が為した仕事の意味を都市に暮らす人々に伝えた紹介者。でも、なぜ、そこまで一人の男の人生に思いを馳せて、文章を重ねたのか? 文筆家としての星野について魅力を語る言葉の端々に、その答えが滲んでいた。

「もりもり食べたら、 突っ走っていきます」

 もりもり食べるよ。お腹が破裂するまで食べちゃうよ。動けなくなるまで食べるよ。トマトを頭の上に乗せて、フライドポテトを鼻の穴に突っ込んで、玉ねぎスライスを目に挟み、人参を耳の穴へ、フォークとナイフをズボンのポケットに突っ込んで、油の汁を顔に塗りたくり、右手にご飯、左手に肉の塊、気合を入れて立ち上がったら、店を飛び出す。すると、外で大きな猫が待っていて、わたし、襲われました。

『仲良くしてね!』

 ぶらりと入った本屋の雑誌コーナーで、たまたま目に留まったブルータスの表紙に、特集「男の定義」の文字が躍っていたら
……その文言を見ただけでビビッてしまい、いきおい傷ついて、落ち込んでしまいそうだ。もし自分が、男だったら。
 それでもめげずに雑誌を手に取り、パラパラめくった先に、あろうことか三十代の女の作家が書いた「男らしさとはなにか」についてのエッセイが載っていた日には、“そっ閉じ”必至である。

片岡義男と、2度目の週末の午後。

 作家・片岡義男がデビュー40周年を迎える。1974年、「白い波の荒野へ」でデビュー後、『スローなブギにしてくれ』『彼のオートバイ、彼女の島』『ボビーに首ったけ』に代表される角川文庫シリーズ(通称「赤背」)が全国の書店に並び、映画化作品もヒット。80年代初頭には一躍世に知れ渡る存在となった。
 その活躍の場は文学界のみにとどまらない。作家としての成長期には創刊されたばかりの『POPEYE』『BRU

父の背中が語るのは、好き勝手に生きることの面白さ。|戌井昭人

 父親はほとんど家にいなかったですね。好き勝手なことをしていたので。小学生の時に家族3人で旅行したんですけど、なんかつまんなくて寂しくなっちゃって。場所もまた山小屋みたいな寂しいところで、それ以降は一人で行った方がいいやって思うようになっちゃった。
 でも後楽園ホールに、よくプロレスを一緒に観に行きましたね。リングサイドで観ていて、僕がトイレだかに席を立ってリングの反対側に行ったら、父親が椅子を持

世界で読まれるル・クレジオの創作。

 作家ル・クレジオの来日に合わせて開催された講演会とサイン会。どちらも定員は早々と埋まり、サイン会では氏の到着を待って長い列ができた。定刻をわずかだけ過ぎて現れたル・クレジオその人は、背筋のすらりと伸びた、見るからに品の良さそうな男前。とはいえぐっと相手を見つめる眼光はやはり鋭くて、大作家の風格が隠しようもなくにじみ出る。
 1963年に『調書』でデビューし、大きな文学賞を得たル・クレジオ。23歳

20年前からやってきた言葉の贈り物。|ジャン=マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオ

 南北アメリカ大陸にアフリカ大陸、アジア、大小の島々……。文化の異なる世界各地を遍歴し、それを執筆の糧としてきたノーベル賞作家、ル・クレジオ。1995年発表の長編小説『隔離の島』の邦訳版刊行を機に来日、講演とサイン会を行った。邦訳版は500ページ近い大長編。「情熱を傾けて書いた作品が、日本の読者に出会う機会を得た。翻訳に注がれる膨大な量の熱意を思うと、今でも新鮮な喜びを感じます」。約20年前に紡が