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新人賞

「心地よくても 眠らないで欲しい」

 ふたりで仲良く座ってください。ふかふかっとお尻が沈んでいったら、足を少し浮かしてください。この椅子はアッチの方へスライドしていきますので、足を地面につけていると、大変危険です。スライドしている最中は、死んだネズミとか、食いかけのヤキソバとか、名もない仏像とか、光る石ころとか、湿気ったホコリとか、固まったドアノブなどを見ることができるから、じゅうぶん楽しむことができると思います。途中休憩はありませ

「しびれる雨に 濡れながら踊りたい」

 きつね色の雨が降り、傘をさしたけれど濡れている。靴下、帽子、背中、そして心の中まで濡れている。しばらくは乾きそうにないだろう、でもそのうち乾くだろう。どちらにしたって、わたしの心は雨模様、あすこに見える強烈な光に誘われている。近づけば、意識がヤバめの方にいってしまうことはわかっているのだけれど、導かれてしまっているのだ。ああ、早く雨よやまないか、今宵もタンゴを踊る相手が見つからなそうだべ。

「夢の中で豚が飛んでたよ」

 流行なんて長くは続かないが、わたしはひととき、カツ丼が大好きだった。あまりにも好きで、夢の中に何度も出てきた。しかし、カツ丼を食べようとした瞬間、大きな豚が草むらから飛び出してきて、カツ丼を横取りし、食べてしまうのだった。毎度そんな感じで、カツ丼は食べれない。でもあるとき、豚がカツ丼を喰らう姿を眺めていたら、『こりゃ共食いじゃないか』とおののき、以来、わたしのカツ丼ブームは終わったのだ。

「どこからか悲鳴が 聞こえてきたよ。嫌だな」

 なんかの市場だったところ、いまは怪しい取引をやってるところ、誰もいないようだけれど、二階の奥に、スキンヘッドでガタイの良いボスがいるから、挨拶は絶対しときなよ。ボスは昔プロレスラーにスカウトされたことがあるとかないとかで、いつも大きな金庫の前に座っているよ。決して金庫を触っちゃいけないよ。もし触ったら、二階の窓から放り出されるからね。そもそも金庫なんて気づいてないフリしてるのが得策ですよ。

写真家・鬼海弘雄が撮影し続けた、市井の人々に思いを馳せて。

 写真家・鬼海弘雄は浅草寺を舞台に、無名の人々を45年もの間撮り続けてきた。ハッセルブラッド製のカメラを手に、朝から日没まで境内の片隅に立ち、そしてただ、「何か」をじわりと感じられる被写体が通りすがるのを待つ。日に一人、二人出会えれば幸運だ。シャッターを切ることなく帰宅の途に就くこともある。それでも、これまで1000人を数える人々をフィルムに収めてきた。

 鬼海は一風変わった経歴を持つ。山形県に

「忙しくないなら、 忙しいフリをしろ」

 曇り空、日が沈むと、街に灯りがつきはじめ、わたしはビルの屋上にのぼり、世間を見下ろしながら、今日一日の出来事を思いかえすのです。上手くいかなかったこと、上手くいきすぎたこと、失敗、損失、先の見えぬ問題、若い頃は苦労は買ってでもしろと言いますが、できれば買いたくありません。しかしながら、いつの間にやら、苦労のバーゲンセールを買い込んでしまったありさまで、今日も一日が終わってゆくのです。

「本当に欲しいものは無いので なんでもください」

ボールが的に当たったらイチゴをください。的に入らなかったら他のものでもいいです。でも何かください。頂けるものなら何でもいただきたいのです。子供の頃から、いろいろと頂き物をしてまいりました。その中には、欲しかったものもあったけれど、別に欲しくなかったものもあります。でも、頂けるということは、なんであれ嬉しいものです。だから、何でもいいからください。いつでもなんでも募集中。現在はイチゴを所望中。

「おい、まだ飯食ってるのか」

 怒ってるぞ、この上なく怒ってる。あんだけ言ったのに、お前、また同じじゃないか、舌をペロペロやって、とぐろを巻いて、なんの進歩もありゃしねえ。もっと考えたらどうなんだ? ワシは、今日も牙を研いでから石を噛み砕き、泥水を飲んで、屋根の上から三回転げ落ちるといったトレーニングをしたぞ、満身創痍ってやつだ。それに比べてお前さんは、あいかわらず、まだ食事中だ。とっとと飲み込んじまえ、食事終わらせろ。話はそ

「吸うか吸われるか、 そんな世の中だ」

 煙まいあがる空の下、囲いの中に、泥にまみれた男がいるよ。煙は臭くて苦い、世間が嫌がっている。けれども、シャツがしわくちゃになった男がいるよ、手のひらが冷たくなった女がいるよ、ギャンブルに負けて路頭に迷っている男がいるよ、疲れたけれど働きに行かなくちゃならない薄着の女がいるよ。ココの皆さんは、空を見上げることも忘れ、ひたすら煙を吐き出している。燻された木の枝が面倒臭そうに「おつかれさま」と囁いた。