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新人賞

「忙しくないなら、 忙しいフリをしろ」

 曇り空、日が沈むと、街に灯りがつきはじめ、わたしはビルの屋上にのぼり、世間を見下ろしながら、今日一日の出来事を思いかえすのです。上手くいかなかったこと、上手くいきすぎたこと、失敗、損失、先の見えぬ問題、若い頃は苦労は買ってでもしろと言いますが、できれば買いたくありません。しかしながら、いつの間にやら、苦労のバーゲンセールを買い込んでしまったありさまで、今日も一日が終わってゆくのです。

「本当に欲しいものは無いので なんでもください」

ボールが的に当たったらイチゴをください。的に入らなかったら他のものでもいいです。でも何かください。頂けるものなら何でもいただきたいのです。子供の頃から、いろいろと頂き物をしてまいりました。その中には、欲しかったものもあったけれど、別に欲しくなかったものもあります。でも、頂けるということは、なんであれ嬉しいものです。だから、何でもいいからください。いつでもなんでも募集中。現在はイチゴを所望中。

「おい、まだ飯食ってるのか」

 怒ってるぞ、この上なく怒ってる。あんだけ言ったのに、お前、また同じじゃないか、舌をペロペロやって、とぐろを巻いて、なんの進歩もありゃしねえ。もっと考えたらどうなんだ? ワシは、今日も牙を研いでから石を噛み砕き、泥水を飲んで、屋根の上から三回転げ落ちるといったトレーニングをしたぞ、満身創痍ってやつだ。それに比べてお前さんは、あいかわらず、まだ食事中だ。とっとと飲み込んじまえ、食事終わらせろ。話はそ

「吸うか吸われるか、 そんな世の中だ」

 煙まいあがる空の下、囲いの中に、泥にまみれた男がいるよ。煙は臭くて苦い、世間が嫌がっている。けれども、シャツがしわくちゃになった男がいるよ、手のひらが冷たくなった女がいるよ、ギャンブルに負けて路頭に迷っている男がいるよ、疲れたけれど働きに行かなくちゃならない薄着の女がいるよ。ココの皆さんは、空を見上げることも忘れ、ひたすら煙を吐き出している。燻された木の枝が面倒臭そうに「おつかれさま」と囁いた。

「狙いは外せないのよ」

 ホラそこ、そこズレてるよ。真っすぐにしておくれ、ホラホラ駄目だよ、間をあけないで、もーすこし右だ、いや左か? オイ、ちょっと行き過ぎちまったぞ、ちょいと戻せ、うん、そうだそうだ、そんな感じで良いんじゃねえのか。よっし、そんじゃあ今から、いったんグインと縮むんで、それから、ビヨーンと伸びて、飛んでいくから、でもって、ガブッと噛みつくぞ、そしたら、もう離さないぞ、絶対に離さないんだからなオレは、そう

『愛がなんだ』で演じた、“真っすぐな片思い”。

 この春公開の、角田光代の同名小説を今泉力哉監督が映画化した、ある意味究極の片思い映画『愛がなんだ』で、岸井は成田凌演じるマモちゃんに一方的に思いを寄せ、結局いいように扱われてしまうテルコを演じた。「最初に思ったのは、私はテルコじゃない、ということでした。私はあんなふうに真っすぐ好きな人に向かっていけない。でも、その気持ちの熱量みたいなものは理解できる。だから、現実には難しくても、この映画でとこと

漫画やゲームを評論するブルボン小林と、小説を書く長嶋有。

「『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』カバーの金氏徹平さんの作品は、僕の自宅に飾っているものです。今回使わせてもらうにあたって、題字を載せたり色をつけたりの改変も快諾してくれ、デザインのアドバイスまでしてくれ、本当に感謝しています。『私に付け足されるもの』のカバーは“地味な女シリーズ”と銘打たれた短編を収める、そんな本にこそ派手な服を着せるべきだ! と思ったので、人物画にしてほしい、絵の中の

村上春樹『風の歌を聴け』の僕、鼠、女

名前:村上春樹『風の歌を聴け』の僕、鼠、女

症状:秋が近づくと、いつも鼠の心は少しずつ落ち込んでいった。カウンターに座ってぼんやりと本を眺め、僕が何を話しかけても気の無さそうなとおりいっぺんの答えを返すだけだった。

備考:海辺の街に帰省した僕と鼠と女の子とが過ごした1970年の夏。ビールと音楽と文学のある青春の一片。群像新人賞を受賞した著者デビュー作。講談社文庫/450円。

「赤い靴を履いてりゃ 乙なんだ」

明日があるからよけいに疲れてしまうのよ。空が曇ったり晴れたりするから腹が立つんだ。波はおしよせてはひいて、海岸にタコが打ちあげられた。恋人たちは笑いながらタコをもてあそぶ。赤い靴を履いておめかしをしたけれど、迎えが来ない。だから目印になるようにビニールを頭からかぶってみたんだ。しばらくすると空に銀色の光が見えた。あれは、ぐるぐる回る円盤だね。わたしを迎えに来たんだね。赤い靴を履いといて良かったよ。