「Car Life」編集後記:クルマをめぐる物語

2024年4月15日発売 No.1006「Car Life」を担当した編集者がしたためる編集後記。

連載一覧へ

クルマをめぐる物語

アウディのR8スパイダーに乗って、〈富士スピードウェイ〉を走らせてもらったことがある。走ってみると意外と高低差があることに気がつくコースを疾走し、最後のストレートで思い切りアクセルを踏み込んで時速260kmの世界を味わった。そのときに感じた強烈なG、案外ゆっくりと流れていく窓外の景色、じっとりと汗ばみながら握るステアリングの感触を今でも忘れない。クルマとはドライバーの感動と興奮のためにあると思った。

幼いとき、家族での移動はほとんどクルマだった。父が運転する日産のサニーカリフォルニアで、横浜に住む叔母の家によく遊びに行ったのだが、その道中で〈レストラン あさくま〉が現れると、その屋根に走る犬の彫像の数を家族みんなで数えた。数など変わるわけがないのに、毎度毎度飽きもせず。建物を通り過ぎるその数秒間が、とても楽しかったことを思い出す。今振り返ると、クルマは同乗者の楽しさのためにあるのかも知れないとも思う。

“クルマが好き”で繋がった縁がある。電車で集まり(これが大事なときもある)、酒を飲み、愛車のこと、これまで乗り継いだ数台や憧れの一台についての話などに花が咲く。一方で、私はこの数年ルノーのカングーに乗ったが、オーナーたちが集まるイベント『カングージャンボリー』に参加すると、見ず知らずの人たちにいつしか仲間意識が芽生えることを知った。そんな飲み会やイベントの帰りに思う。クルマは仲間との絆にもなるのだな、と。

ドライバーにも、同乗者にも、仲間たちにも、豊かな時間をつくり出す「クルマ」。今号では、一人と一台(時には数台)とのストーリーを聞きに、日本全国のみならずアメリカ西海岸にまで足を運んだ。はじまりは、目の前にある愛車についての話なのだが、インタビューが進んでいくと、クルマに関する原体験や、同じ車種に乗る仲間のことにまで内容が及んだ。子供の将来を想う気持ちにまで言及した方もいる。今回のメインテーマは「Car」ではなくて、愛車を通じてドライバーの生き方や考え方を垣間見る「Car Life」だ。

今号を読んでくれたあなたといつかどこかの道であったとき、豊かなカーライフを送っていてくれたなら。そう願いつつ、編集のため長いこと齧り付いたデスクを離れて、早いところ自分のクルマに乗り込みたいと思う。ただ、私にはクルマがない。いや、車庫を空けて待っている。実はいま、知人から特価で譲ってもらった新たな一台を迎える1週間前。次の相棒は“ディスコ3”こと、ランドローバーのディスカバリー3。待っている間の胸の高鳴りたるや!待つ時間、これもまた心が躍るカーライフなのだ。

ランドローバーのディスカバリー3
待っている間、何度も見てしまう次の愛車・ディスコ3の写真。まずはラーメンでも食べに遠出して、事務所のソファを買って帰ろうか、なんてドライブ妄想に耽る今日この頃。

連載一覧へ