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劇作家・前田司郎が語る、わたしの百読本「人の魅力を見つけるアンの視点を共有する」

戯曲、小説、映画の脚本と、様々な手法で物語を紡ぐ前田司郎さん。普段は小説をほとんど読まず、人文書などを読むことが多い。だが、これだけは別格で何度も読み返しているという本は、なんと『赤毛のアン』だそうで。

Photo: Tomo Ishiwatari / Text: Keiko Kamijo

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『赤毛のアン』

前田さんの読書の時間はもっぱら寝る前。特に読む本がない時に、パッと手に取るのが『赤毛のアン』なのだという。理由は間違いがないから。

「新しい本って、面白さも読みやすさも未知数だから読むのに結構体力がいるんですが、繰り返し読んでいる本だったら面白さもわかってるし、どんなに疲れていても読める。また、読むたびに深さが増すんです。

最初は気にならなかったシーンに気づいたり、伏線とも言えないくらいさりげない表現が気になったり。それが面白い。だから、展開を追うとか何かを学ぶとか情報を得るっていう読み方ではありませんね」と前田さん。

最初に『赤毛のアン』を手にしたのは、中学生。自ら小説を書きたいと思うようになり、それなら小説を読まねばと書店に行った際に出会った。

「最初は『赤毛のアン』って有名なヤツだよね、くらいの気持ちで。当時は少女漫画とかも好きで読んでいたので、全然抵抗はなかったんですが、買う時は少し恥ずかしくて、漫画の間に挟んでレジに持っていきました。

でも読み始めたら、めちゃくちゃ面白かったんです。物語としてはよくある手法で、コミュニティに異分子が入り込んで周囲を感化していく話なんですが、一気にのめり込みました。アンがとにかく魅力的だし、ほかの登場人物もいいんですよね。読むたびに違う人物に思い入れを持ってしまいます」

劇作家・前田司朗

読むたびに発見がある
人物描写の奥深さ。

登場人物がすべて魅力的であり、読む側の年齢によって思いを馳せる人物が変わっていく、それが『赤毛のアン』の魅力だと前田さんは言う。

「登場人物が魅力的なのは、すべてアンの視点で見てるからなんですよね。偏屈で嫌われていて人付き合いがないような人だったりしても、アンと関わることで、ほかの人には見えていなかった魅力が見えてくる。

それってすごく大事なことで、一見嫌なヤツに見えた人でも全然違う側面があるし、いい人そうな人でも暗い心を持っていたり。決して長くはない物語の中で、そうした人間の複雑さゆえの豊かさが描かれている。だから何度読んでも飽きないし、発見があるんでしょうね」

また、時を経ても本は中身が変わらない。当たり前のことだが、それが活字の魅力であり本を読み返す理由だ。

「人間の友達だと相手も成長するし変化しますよね。だから自分の変化に気づきにくいんですが、本の場合、相手は活字だからずっと変わらない。何度も読むことで受け取り手である自分の変化に気づくことができる。

年齢によって感情移入するキャラクターは違うし、景色の描写一つにしても、前は単に説明的に読んでいたのに感情と結びつけて感じられるようになったり。だから古い友達に会いに行くような感覚でいつも本を開いていて。読み始めるとやっぱり面白くて、最後まで読んでしまうんです」

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