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料理家・按田優子が語る、わたしの百読本「肥大化する世界のサイズ感を修正するために」

便利であることが豊かさと思ってしまいがちな現代。けれど、うっかりすると自分の“心地よさ”と引き換えに、他者や人間以外のもろもろのことを忘れてしまいそうになる。そんなとき、按田優子さんはいつも一冊の本を開き、ありたい自分の姿について考える。

Photo: Tetsuo Kashiwada / Text: Yuriko Kobayashi

野草を摘んで食べてみたり、土から絵の具を作ったり。『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』では、自然の中で遊び、学ぶすべを知るスペシャリスト33人が、野性を呼び覚ます様々なアイデアを紹介する。

中には、「森と呼吸を合わせ、同化する」といった上級者向け(?)のものもあるが、按田さんにとっては、そのすべてが、日々を生きるうえでのヒントになる。

『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』

「私にとってこの本は、今日は何をして遊ぼうかな?といった感じで読むものではないんです。ここに書いてあることをワークショップ的に捉えるのではなくて、自分の暮らし方や世界との関わり方の尺度を測るための基準を知る、それを教えてくれる存在です」

例えば「ナイフ1本で火起こし きりもみ式発火を身につけよう」というページ。一見、サバイバル的な技術のハウツーだが、按田さんは日々の暮らしのサイズ感について考え直す。

「きりもみ式発火って、木の板の上で枝をグルグル回して火をおこす、原始的な火おこし法なのですが、達人はこの着火法をマスターすることで、“小さくはじめ、小さく使い、小さく閉じるという、重要な心得が自然と身につきます。”と教えているんです。

それって私たちの今の暮らしにおいてとても大切な気づきだなと思って。たくさん買って、次々に使って、すぐ捨てるという現代のライフスタイルとは真逆の考え方で、素晴らしいなって」

料理家・按田優子

最近、東京から神奈川県の海沿いの町に住まいを移した按田さん。今、「小さな」暮らしを実践したいと、暮らしのサイズ感を見直している。

「日頃から料理をしているとき、アボカドとかバナナとか、これって日本で採れない作物だよなって思うことがあるんです。遠い外国からはるばる運ばれてきて私の前にある。
略奪と言ったら強すぎるかもしれませんが、自分の便利で快適な生活のために、誰かの時間や労力が使われていることは確かです。

そう思うと、どうしても必要じゃないなら、近くで採れたもの、なんなら自分で作ったものを食べたらいいんじゃないかって。それが難しい場合でも、少なくとも、これは遠くから来たものだという認識は常に持っていたいなと思うんです」

その感覚は「自分が生きている世界の規模感を確かめること」だと言う。

「仕事や生活に追われていると、どうしてもその感覚をスルーして、いやいや、この規模感、普通じゃないでしょ!という違和感が薄れてしまう。そんなときにこの本を読むと、本来あるべき規模感、身の丈に合っていて、かつ他者やその他の生き物や自然に身勝手に負荷をかけない暮らしのサイズ感を取り戻すことができるんです。

自分もまた生き物であり、自然の一部なんだということ。その感性を呼び起こしてくれる、私の先生ですね」