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日常的ドイツの冒険 by村上春樹 Vol.8「御当地ソングならぬ御当地映画の凄さ、『ベルリンの闘い』」

村上さんがドイツのいくつかの街を巡った1ヵ月間を記録。1984年のBRUTUSドイツ特集でのレアなエッセイ集を復刻掲載。

Text: Haruki Murakami

御当地ソングならぬ御当地映画の凄さ、『ベルリンの闘い』

新聞を見ていたら、ベルリンのクーダムの小さな映画館で『ベルリンの闘い( SCHLACHT UM BERLIN)という記録映画をやっていたので、ためしに観にいってみた。

この映画が上映されるのは毎週日曜日の朝の十一時からのマチネー一回だけで、それ以外の時間には「フラッシュダンス』をやっている。

ベルリン市民にその映画のことを話したら、「へえ、あれまだやってるの?同じ小屋でたしかもう七、八年やってるんじゃないかな」ということであった。もし本当だとしたら、これはたいしたものである。

『ベルリンの闘い』は一時間くらいの長さのフィルムなので、その前に短編映画が二本上映される。一本は二十世紀初頭のベルリンの市民生活を記録したフィルムであり、もう一本は現代ベルリンの観光案内である。それが終わるといよいよ本編が始まる。

客層は戦中世代風老夫婦が半分に若い人々が半分というかんじである。客の入りは五割というところだ。みんなしんとしてスクリーンをにらんでいる。ポップコーンを食べたりジュースを飲んだりしている人もいない。わりに切実な雰囲気である。

映画は一九四五年早春、ヒットラーが陣頭に立って首都防衛の戦闘準備をしているところから始まる。一方ではソ連軍が破竹の進撃でドナウを渡河し、ついにはベルリン包囲に成功する。そしていよいよ壮絶なべルリン攻防戦が始まり、最後には街が徹底的にぐしゃぐしゃに壊滅させられちゃうわけである。

記録映画とはいっても、早い話が独ソ両方の側のニュース・リールをつなぎあわせただけの映画なのだけれど、その素朴なぶんだけかえって生々しく、かなりの迫力ものである。『トワイライトゾーン』のジョン・ランディスのエピソードみたいに映画を観終って一歩外に出たらまわりは一九四五年のベルリンだった、なんてことになったらどうしようとついつい心配になってしまうくらいだ。

目黒のサンマじゃないけどこの『ベルリンの闘い』はやはりベルリンの映画館で観てほしいと思う。日曜日にベルリンに行かれることがありましたら是非どうぞ。

地元ものといえば〈動物園劇場(パラスト・アム・ツォー)〉というベルリン動物園駅の近くにある映画館で観た『動物園駅の子供たち』(クリスチーネ・F)もまわりの環境のせいか、なかなかリアルですごかった。