Read

Read

読む

日常的ドイツの冒険 by村上春樹 Vol.4「B級映画、B級スナック。夜風が冷たいケルン慕情」

村上さんがドイツのいくつかの街を巡った1ヵ月間を記録。1984年のBRUTUSドイツ特集でのレアなエッセイ集を復刻掲載。

Text: Haruki Murakami

B級映画、B級スナック。夜風が冷たいケルン慕情

ケルンの街で『ANCHOL:DERTOR ZUM HALLE』つまり『アンコールワット、地獄への門』という超B級のアメリカ戦争映画を観た。ドイツ語吹きかえなので細かいところはわからない。しかし、要するに救いがたいB級映画である。ケルンくんだりまで来てなんでこんなもの観なくちゃいけないのかすごく疑問だけど、まあとにかく暇つぶしで観た。

映画館を出ると、B級映画を観たあとの常として、夜風が身にしみる。それでビールを飲みたくなって、アーヘン通りの目についたスナックに入る。入ってみるとここも完璧なB級スナックである。ウェイトレスは銀ぶち眼鏡をかけた五十年配のおばさん、客はベルリン攻防戦の生き残りといった様子の足の悪い老人一人という有様だ。その二人がカウンタ―をはさんでぼそぼそと何ごとかを話しあっている。流れている音楽は当然ポルカ。

ケルンで生ビールを飲んでまず驚くのは、グラスがひどく小さいことである。容量にすると二百ミリリットルだから、コーラの瓶よりちょっと多いくらいのものだ。生ビールといえば大ジョッキに慣れてるから、これくらいだと飲んだ気がしない。だから当然おかわりをする。おかわりを運んできたウェイター/ウェイトレスはそのたびにコースターにボールペンでしるしをつける。要するに、早い話がわんこビールである。どうしてケルンの酒場にかぎってそんな面倒なことをするのかまったく理解できないけど、とにかくそう決まっているのだ。

そんなわけで、僕はケルンのきわめつけB級スナックでわんこピールを何杯も飲みながら、にしんのクリーム漬けを食べる。どういうわけかケルンではにしんのクリーム漬けがやたらうまいのである。まさかライン河でにしんがとれるわけでもなかろうに、どこの店で食べてもとてもおいしい。

B級スナックを出てもまだ夜風が冷たくて、スタンド売りのあつあつの立食いピツァをハフハフと食べる。かなり大きなピツァで、これがだいたい三百円くらい。カリカリのベースではなく、やわらかいお好み焼夕イブで、これもなかなかのものである。ピツァを食べてしまうとやっと人心地ついて、次に『銀河伝説クルール』を観る。ケルンまで来てほんとにこんなことしてていいのかなあ。