Cook

村上小説の妄想食卓「免色さんの念入りなもてなし」

きりりと角の立ったサンドイッチ、ぴったりのタイミングでゆで上がるパスタ、グラスに注がれるウイスキー……。そそる「食」のシーンもまた、村上作品の魅力だ。印象に残る名シーンをぎゅっと詰め込んだ食卓はどんな風景になるのだろう。時代背景や前後の文脈をじっくりと読み込んで具現化した「妄想食卓」へようこそ。

Photo: Satoshi Nagare / Styling: Tomomi Nagayama / Cooking: Shizue Ota / Text: Sawako Akune / Edit: Masae Wako

『騎士団長殺し』第1部

さっきの若い男が銀色のトレイにカクテルを二つ載せて運んできた。カクテル・グラスはとても精妙にカットされたクリスタルだった。たぶんバカラだ。それがフロア・スタンドの明かりを受けてきらりと光った。

それからカットされた何種類かのチーズとカシューナッツを盛った古伊万里の皿がその隣に置かれた。頭文字のついた小さなリネンのナプキンと、銀のナイフとフォークのセットも用意されていた。ずいぶん念が入っている。
(略)

考えるまでもなく、免色が腕の悪いバーテンダーを雇うわけがない。コアントローを用意していないわけがないし、アンティークのクリスタルのカクテル・グラスと、古伊万里の皿を揃えていないわけがないのだ。

アンティークのクリスタルのカクテル・グラスと、古伊万里の皿

「免色さんの念入りなもてなし」

元は高名な日本画家が住んだ小田原の空き家に、管理を兼ねて住む主人公。谷の向こうにある、テニスコートとプール付きの豪邸に住む免色渉さんは、2人だけの夕食のためにプロの料理人とバーテンダーを招くような資産家。そのもてなしは凝りに凝っているから、カットの美しいバカラはアンティークで。きりっと折り目のついたナプキンや小ぶりのカトラリーを合わせた。