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ハンデのある犬を迎えるということ。〈wanwanhogo〉と〈ランコントレ・ミグノン〉の活動

飼うなら保護犬を、という人も増えてきた今、病犬や被災地に残された犬など「ハンデのある犬たち」を預かり、新しい家族を探す活動をしている人たちがいる。その思いや、迎える側の姿勢について聞きました。

Photo: Akiko Baba,Shinya Yamauchi / Text: Rio Hirai,Yuriko Kobayashi / Cooperation: SILVER BACK TOKYO

病気やハンデも個性として
付き合っていく選択

ある雨の日、犬と通える東麻布のジム〈SILVER BACK TOKYO〉を借りて行われたwanwanhogoの譲渡会は、たくさんの人と犬で賑わっていた。のびのびと会場を歩き回る犬、ケージの中で尻尾を振る犬、ボランティアの女性にブラッシングされている犬……。

ここにいる犬は、盲目や環軸亜脱臼、心臓病といった何かしらの疾患を抱えている。スリングで一頭を抱きかかえながら、人々に笑顔で声をかけているのが代表の西克恵さんだ。
「今抱えているこの子は、吠えグセがあるんです。虐待されていたのか、人に対して恐怖心が強いみたいなの。でもこうして心音を聞かせていると、安心してちゃんと落ち着くんですよ」

西さんは、幼い時から捨て猫などを保護していたそう。社会に出てアパレル業界で仕事をする傍ら、知人の保護活動を手伝うようになる。そのうちに、病気を持った犬たちが“廃棄”されていく現実を目の当たりにし、それらの犬を引き受けるべく2016年より保護活動を始めた。

出会いあり、再会ありの
wanwanhogoの譲渡会

「疾患があるともらい手もつきづらいし、介護は簡単じゃない。だからといってその状況を看過できないのと、たまたま家族や職場に理解があって何とか続けられています」
ただ病気の犬を引き取って里親を探すのではなく、獣医やボランティアと協力し、疾病や傷、トラウマを治療し、できる限り安定した状態になってから譲渡会に連れていく。

「あらゆる状態の犬がやってきます。中には、救えなかった子たちも。何頭見送っても慣れることはなくて泣いてばかりだけど、ちゃんと回復して素敵な飼い主さんと出会える子もたくさんいます。以前譲渡した子と里親さんがまた来てくれることもあって、元気な姿に再会すると今度は嬉しくて泣いてしまうんです」

女優の森矢カンナさんも、西さんから愛犬を譲り受けた一人だ。
「前回の譲渡会でドクくん(キャバリア・10ヵ月)と出会いました。目が悪いことから売り物にならないと判断され、狭いケージから出されることなくエサもろくに与えられずに育ったと聞きました。今は我が家で安心して過ごしてくれているみたい。私の大事な家族です」と森矢さん。

wanwanhogoの譲渡会
ドクくんと里親の森矢さんとの再会。

ドクくんとの再会を喜びながら、西さんがこう話す。「疾患についてきちんと説明し、飼い主さんと暮らし始めたあとも相談に乗っています。私たちが預かるのは人間の事情で病気や問題を抱えてしまった子ばかり。だからこそ、ちゃんと責任と愛情を持って、最後まで付き合いたいと思っているんです。病気があっても等しく尊い命。みんなかわいい子たちです」

西さんに抱えられたスリングの中の犬は、すっかり落ち着いていた。

心と体に傷を負った犬たち
家族に迎える覚悟とは?

「災害ボランティア」という言葉が定着して久しい。一般的には災害被害に遭った人を援助する活動だが、苦しんでいるのは人間だけではない。

東京で身寄りのない犬猫や小動物を保護・譲渡する動物愛護団体〈ランコントレ・ミグノン〉は、被災動物たちのレスキューも行っている。きっかけは東日本大震災だった。

「特に福島第一原子力発電所周辺は震災後に住民の立ち入りが禁止されていたので、飼い主は犬猫を置き去りにせざるを得ない状況。なんとか餓死だけは避けたいと、震災発生の10日後に原発から約30㎞の福島県南相馬市に入りました」

被災地に残された犬
被災地の犬たちは次第に群れを作って野生化した。

3.11で行き場を失った犬
ミグノンが守った150の命

代表の友森玲子さんが見たのは、全住民が避難し、ゴーストタウンと化した町と、そこを徘徊する無数の犬たちの姿。休日ごとに被災地へ通い、車に乗る限りの犬を乗せて東京へ。捕獲できない犬猫には食べ物を残し、同時に張り紙などで保護した動物の飼い主を探した。

「約半年間で保護した犬は150頭。うち2〜3割は元の飼い主の元へ返し、残りは東京のミグノンの譲渡会で新しい飼い主を見つけました。犬の多くは都会で飼うには大きいサイズ。特に長期間被災地で放浪していた犬は警戒心が強く、攻撃性が高い子もいましたが、譲渡会ではそれも包み隠さずお伝えしました」

ミグノンから被災犬を譲り受けた一人が、神奈川県在住の吉田ひろみさん夫妻。柴犬・パテちゃんは、原発10㎞圏内で保護されていた。

「震災以降、ずっとミグノンのサイトで被災犬のことを気にかけていたのですが、パテは以前飼っていた柴犬の面影があって。でも譲渡会に出て10ヵ月が経っても飼い主が見つからない。聞くと気性が荒くて、小さい犬や人間の子供に吠えてしまうとかで。でもうちはペットも子供もいないので大丈夫じゃないかと。最初はやや神経質でしたが、すぐに落ち着いていい子になりました。急に飼い主を失ったり、長い距離を移動したりして不安だったんでしょう」

ただ、こうしてスムーズに被災犬を迎えられるケースばかりではない。
「災害直後はどうしても“なんとかしなきゃ”という気持ちが強くなります。でも、いっときの勢いではこの先10年、犬を飼うことは難しい。しかも多くは心と体にハンデを持った犬です。譲渡の際は飼い主さんのライフスタイルや家庭・住居環境などをよく聞いて、いつもより慎重に話し合って決めました」(友森さん)

被災犬を家族に迎えるということは、期間限定の災害ボランティアとは違う。彼らの負った傷を理解し、生涯にわたってその命を守っていく。それは災害の後もずっと続いていく、長い長い関わりなのだから。

被災地に残された犬
多くの飼い主が犬と一緒に避難できず、置き去りに。捕獲できた犬は東京で治療や除染を施した。