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「自伝で知る、監督の危険な狂気。」デイヴィッド・リンチ、ロマン・ポランスキー論

今まで通りの手法でブロックバスターのような大作を作り続けるだけでは、アーティスティックなムービーをストイックに作るだけでは、大きな波に簡単にさらわれてしまう現代。何を創り、何を訴え、そして時代にどのように爪痕を残すのか。時代と闘いながらマスターピースを作ってきた映画監督と、その作品について考えます。
初出:
BRUTUS No.927映画監督論。』(2020年1115日号)

text: Makoto Takimoto / illustration: Masaki Takahashi

デイヴィッド・リンチ

放心状態でふらふら歩く全裸女性との遭遇、この幼少期のトラウマを自作にフラッシュバックさせたのが『ブルーベルベット』である。この全裸女性に名女優イングリッド・バーグマンの娘イザベラ・ロッセリーニ。撮影時、近隣の多くの男性がビール片手に見物した。

イザベラは撮影初日にパンティをとらされ、デニス・ホッパー相手に開脚しなくてはならなかった。ヴァギナ慣れのホッパーがどのような個性をそこに見いだしたかはわからないが、このヴァギナにむけて、マミーと叫び悶えるわけで、どう考えても尋常ではない。

むろん、尋常でないのは、演出するリンチだ。2018年、自伝『Room to Dream』(邦訳『夢みる部屋』フィルムアート社)を発表、これが尋常ではない。

おびただしい初披露ゴシップネタを縫うように、いくつかの衝撃がまぎれこんでいて息を抜けない。いまだに謎めいた1947年のアートな死体=ブラック・ダリア(エリザベス・ショート)殺人事件に関して、当時の担当刑事が『ロスト・ハイウェイ』撮影中のリンチに示した一枚の写真。その写真は夜、大掛かりな照明のもとでバラバラ死体が撮影されたものであることにリンチは気づく。撮影所の仕事に従事する誰か、映画業界者の仕業だ。

1960年代の悪魔ブーム、音楽においては、ブルース歌手ロバート・ジョンソンの大復活があった。ギターが突然うまくなったのは悪魔に魂を売ったためとまことしやかに囁かれたジョンソン、いわゆる〈十字路の悪魔〉伝説。彼の映画化企画がリンチにあった!

『ブルーベルベット』

カネもそうだが、それ以上に耳もおいそれとおちていない。しかし、父が倒れ、林業中心の小さな町に帰郷した大学生ジェフリー(カイル・マクラクラン)は、空き地でソレを拾ってしまうのだ。ここから彼は探偵ごっこを始めるが、悪夢のごとき奇怪な出来事に巻き込まれていく。ローラ・ダーンの唇の波形泣きが話題となった。'86米。

『ロスト・ハイウェイ』

ブラック・ダリア事件への関心が生み出した異様なドッペルゲンガー暗黒祭、起点が性的不能というのは同情に値。謎の男を演じたロバート・ブレイクはのちに妻殺しの罪で収監(無実となったが)、映画のファンタジーがリアルへと転換されたことで話題となった。彼のナタリー・ウッド水死への証言に注目(『夢みる部屋』)。'97米。

ロマン・ポランスキー

さて、60年代の映画界にとっての悪魔といえば、『ローズマリーの赤ちゃん』を超えるイメージはない。ポスターの乳母車の中に何が潜むか、当時まさしくインパクト絶大であった。手掛けたのは、アメリカ映画初挑戦のロマン・ポランスキーだ。

ポランスキーは恋人のシャロン・テイトをヒロインにしたかったが、初めての地で無理は通せない。というより、テイトはイギリス時代、J・リー・トンプスン監督の『Eye of the Devil』の魔女役のため、儀式を受けた認定魔女で、これはミス・キャストとなろう。『ROMAN by Polanski』(1984年)ほどに、冷静な狂気がうかがえる自伝(未訳)はない。実は悪魔はポランスキーであったか?

『ローズマリーの赤ちゃん』

か細いミア・ファーローがヒロイン、ローズマリーを演じ、さらに映画の不安と戦慄が倍加した。このとき、ファーローは歌手フランク・シナトラと結婚していたが、シナトラは妻が自分よりマスコミで話題になることに耐えられず、撮影佳境の彼女に離婚を伝える。夫という存在への疑念はリアルに映画に直結したわけだ。'68米。

『ロマン・ポランスキーの吸血鬼』

吸血鬼映画のパロディ作で監督・主演をこなした。この作品で出会った売り出し中の女優シャロン・テイトと恋に落ちた、というより自伝を読めば、パワハラで恋人(マンソン一味にテイトとともに殺される)からの略奪婚だ。テイトは17歳でレイプ体験とかLSD体験とかポランスキーに衝撃告白している。'67米=英。