メルちゃん人形誕生の背景には色が変わるインクの開発があった!
2025年のクリスマス。漫画編集者の林士平さんは1歳の娘にメルちゃんを贈った。
「メルちゃんのことは動画で知ってやけに気になっていたようなんです。ある日、メルちゃんを抱っこしている子を娘がじーっと見つめていて。あぁこれは買わなきゃいかんな、と」
ラインナップを調べ、対象年齢1.5歳以上とある《おせわだいすきメルちゃん》を購入した。

お風呂に入ると髪の色が変化するメルちゃん。好きな色はピンク。手足が可動式でお座りやバンザイもでき、水抜きもできるお世話人形の日本代表。対象年齢を1.5歳以上に設定しているため、素材や強度、サイズ感などの安全性もばっちり。
うさちゃんワンピ(くつしたも含む)1,540円(パイロット/パイロットコーポレーション TEL:0120-72-8160)、その他スタイリスト私物
©PILOT Corporation
「ミルクをあげたり、お風呂に連れていったりハグしたり。自分がお世話されるばかりの赤ん坊なのに“人形の世話をしたい”という欲求が明確にある。その根源には何があるんだろうと興味深くてかわいくて、つい観察してしまうんですよね」
1992年生まれのメルちゃんは〈パイロット〉社製。筆記具メーカーでこの知育玩具が作られるようになった背景を、玩具事業部の土井菜摘子さんが教えてくれた。

「一夜にして赤く染まる紅葉のようなインクが作りたいと、温度によって色の変わるインクが開発されたのが始まりです。ペンに使うにはまだ開発途上だけど、この驚きをどうにか世に出せないかというところからおもちゃの案が出てきました。温度が変わる環境に、ある程度のサイズがあるドールを置けばダイナミックに色の変化を見せられる!じゃあお風呂だ!とコンセプトが決まっていったと伝え聞いています」
1992年、メルちゃんの発表当時、お風呂に一緒に入ることのできるお世話人形は一般的なものではなかった。温水を使って髪がピンクに変わるメルちゃんの誕生は、日常的に湯に浸かる習慣が根づいた日本ならではの展開だった。インクの開発は継続され、やがて2006年にヨーロッパ、翌年に日本でも発売される“消せるボールペン”フリクションに結実する。

メルちゃんの髪を染めるインクの技術から、編集者必携の名品が誕生した!
子供たちの生活の反映から関係と世界観が構築される
「娘は、自分の経験を人形遊びを通して追体験しているようなんです。メルちゃんと一緒に生活習慣を学んでいくのに、この人間らしい造形が役立っているんだろうな」
親との関係を再現して遊ぶ1〜2歳を過ぎ、保育園や幼稚園に入る頃には、関係性にも広がりが出てくる。
「最初にお友達の人形ができた2003年には、買った子が名前をつけられるよう《メルちゃんのおともだち》とし、翌年には《おとこのこのおともだち》が出たのですがヒットはせず。2014年にネネちゃん人形が登場すると、名前がついたことと、妹というキャラクターづけによってバン!と跳ねました」と言う土井さんに、「自分で名前をつけられる自由度よりも、キャラクター性がはっきりしている方が喜ばれるのか。すごく面白いですね」と、漫画編集者の顔になる林さん。
あおくん登場で男児にも人気が拡大したと、土井さんは言葉を続ける。「それまで1〜2%と見られた男の子のユーザーが15%まで増えました。男の子もお世話人形で遊びたいという願望が出てきた背景には、男性の育児参加の増加という社会の変化もあったと思います」
身長26cm、抱っこすると目が合うなど、明文化されているメルちゃんの世界の決まり事はごくわずかだが、しゃべらせないというのもその一つ。公式動画には声が当てられるが、人形そのものは無声。遊ぶ子供、メルちゃんたち、お世話の補助をする周辺グッズという3項の関係の中で、想像力を広げて遊んでほしいという開発者の思いが込められている。人形たちは誕生日も設定されていない。
「なるほど、家に迎えた日がそれぞれの誕生日になるというのはペットにも近い感じがします。家族の一員ですよね。キャラを作って世界観ごとユーザーに提示するのとは違うアプローチがあって、この先メルちゃんの物語がどんなふうに付与されていくのか。遊ぶ娘をこれからもじっくり観察したいと思います」



