京都の「時を超える余白」。ギャラリー・紫野〈kankakari〉

素晴らしい空間やサービスだって、提供する側にも受ける側にも気持ちにゆとりがないと楽しめない。私たちにほかでは得難い体験を与えてくれる名店の主たちはなおのことだろう。22年に設計監修を行い造り上げた、ギャラリー〈kankakari〉代表に聞いた、店のあり方と、“京都の余白”。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Mako Yamato

国も時代も忘れ、ただ物と向き合える、美意識に満ちた静謐なギャラリー

「建勲神社へ続く通りに足を踏み入れた瞬間、街の静けさや寺社に囲まれたこの場所の特別な空気を感じました」と店主の鈴木良さんは振り返る。

パリで美術史を修めたのちも長く暮らしてきた彼は、若い頃から古い建造物や修道院に惹かれていたという。各地の建築をつぶさに観察し、古物の蒐集(しゅうしゅう)を続けるなかで、この建物と偶然出会い、移住を決意した。

広島を経て京都へ。2021年には大正15(1926)年に建てられた雑穀問屋の京町家を手に入れ、設計監修を行いギャラリーを造り上げた。外観の格子や通り庭の吹き抜けの天井などに、京町家らしい意匠を残しながらも不思議と異国感が漂う。自然素材を使い、建物の意匠を削ぎ落としていくことで本質的な要素だけとなった空間は、時代も国も超越したものとなったのだ。

ギャラリーで繰り広げられるのは、陶芸家の渡辺隆之や山本雅彦、木工家・矢野義憲、服飾作家・iai、金属作家の秋野ちひろや金森正起らの現代作家、古物や美術の展覧会。

「人間が古(いにしえ)より培ってきた文化に通底する普遍的な“何か”に対して興味があり、そこに現代性が加味されたものに強く惹かれます」と鈴木さん。作家の世界観と深く真正面から向き合ったからこそ生み出される、作り手の内面までに迫り、本質を汲み取った展示は、ここだけの体験をもたらす。

同時に空間も尽きることなく進化する。2025年春には納屋に新たな展示スペースが加わった。「造りたかったのは、訪れた人のインスピレーションの源になるアトリエのような空間。国を問わず古いものから現代の作品まで、その時代や土地の精神性を感じられるもの、空間や身体と波長の合うものが自由に行き来し、変化し続ける空間でありたい」と言う。

各国の古い家具や道具、現代作家の器やオブジェ、絵画、立体作品など、古代から現代までさまざまに美を纏(まと)ったものが並ぶ。柔らかく降り注ぐ光が、物に宿る本質的な美に気づかせてくれる、そんな2つの空間。心を無にして足を運びたい特別感がある。

余白のある店主〈kankakari〉代表、鈴木良さんが語る、京都の余白

暮らしを調律するような、京都を見渡す景色と永く続く服

京都に暮らして実感したのは、街が想像以上に密集していること。心と体を整え、日常に一呼吸置くため、遠回りでも鴨川の川原や寺院の中を抜けて移動します。歩いて数分の距離にある〈船岡山〉から見る景色は早朝が美しい。街の密集から逃れたくなったとき、いつでも逃げ込める安心感もあります。

京都〈船岡山〉
〈船岡山〉から見晴らす京都の街
“岡は船岡”。清少納言が『枕草子』にそう書き記した船岡山。標高112mの小高い丘ながら、山頂からは京都市内を一望できる。その昔、桓武天皇が平安京遷都を決意したというのも納得の眺めだ。毎朝の習慣として山を登る人や太極拳をする人、中腹の建勲神社に早朝から参拝する人の姿もあり、地域の暮らしに溶け込んでいることがわかる。建勲神社は織田信長を祀(まつ)り、ゆかりの刀剣でも名高い。ちなみに“けんくんじんじゃ”として親しまれているが、正式名は“たけいさおじんじゃ”である。

〈MITTAN〉は立ち上げの頃からずっと好きなブランド。修繕や染め直しなどの活動も含め、着ることの本質からブレず、地球環境に配慮し続ける姿勢を尊敬しています。

京都〈MITTAN〉店内
〈MITTAN〉の日々に寄り添う服
2013年にデザイナー・三谷武さんが立ち上げた〈MITTAN〉は、世界の衣服や生地にまつわる歴史を基に、現代の民族服を提案するブランド。ショップとともに修繕アトリエも構え、販売した服の修繕や染め直し、買い取り、再販までを行い、永く続く服を目指している。土壁や竹などの天然素材を使い改装された店舗は、美しく経年変化するブランドのコンセプトとリンクし、心地よさに包まれる。

京都の「余白のある店、余白のある人」。清水五条〈池半 分室〉

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