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蒸留家・江口宏志とイラストレーター・山本祐布子。素材を生かして工夫する、暮らしの実験&編集室

自分にとって心地がよく快適な場所とは、どんな空間なのだろう。気持ちのいい場所で自分のペースで過ごす時間は、何物にも代えがたいものだ。2022年の居住空間学は「居心地のいい部屋」と題し、住まい手による魅力的な暮らし方を紹介。

photo: Norio Kidera / text: Tami Okano

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自分たちのスタイルで、
できることはなんでも

房総半島内陸部。千葉県大多喜町に江口宏志さんと山本祐布子さん家族が東京から越してきたのは、今から7年ほど前。ブックショップの代表として活躍していた江口さんが、蒸留家になり移住したと聞いて、驚いた人も多かったはずだ。

きっかけは、蒸留家、クリストフ・ケラーとの出会いだった。南ドイツにあるケラーの工房を訪問した江口さんは、古い農家の建物を改修し、自然とともにもの作りをするケラーの姿に強く惹かれたのだという。程なくして家族でドイツに移り住み、ケラーのもとで蒸留技術を会得。

帰国後に〈mitosaya薬草園蒸留所〉を始めるに至るのだが、「スイスとの国境にも近い田舎町での暮らしから得たものは大きかった」と江口さん。「自然の中で、こんなふうにモダンに暮らせるのか、とそれまでの田舎暮らしのイメージが一新しました」と山本さんも振り返る。

ネット検索で探し当てたという、ここ大多喜町の敷地は、町営の元薬草園。広さはなんと、5000坪。事務棟や研修棟など、敷地内にはいくつもの建物がそのまま残されていた。住まいにしているのは、東側が半円の、ちょっと変わった形をした元研修棟。

研究機材から事務用品などの備品もすべてそのままだったため、家づくりは、その「残されていたもの」の活用を考えることから始まった。広いパブリックトイレを浴室にしたり、書類棚を上下に分けてキッチンカウンターにしたり。それらすべてが、友人知人の手を借りながらの自主施工だという。そういうこと、得意だったんですね、と感心しきりでつぶやくと、江口さんは笑いながら言う。

「ぜんぜん得意じゃなかった!でも、好きですね。この場所を良くしていく、という“お題”に対して、取捨選択した“素材”を編集し、形にするのが面白い。目的は自分たちのスタイルで楽しく生きていくこと。家づくりも場づくりも、やっていることは全部、そのための工夫です」

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