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糸井重里と愛犬・ブイコ。「犬のいない自由より、犬と一緒にいる不自由の方がいい」

4年前、BRUTUSに「犬っていうものの正体は“犬という形をした愛”」だと語ってくれた糸井重里さん。ブイヨンを看取り、犬と一緒に暮らすことを考え続ける糸井さんと、新たに糸井家に迎えられたブイコの物語。

Photo: Mie Morimoto / Text: Hikari Torisawa

「ブイコと一緒にいると、
ブイヨンも一緒にいるんです」

ブイヨンが最後の犬だって、諦めていたというよりそれが当たり前だと思っていました。寂しいけどそういうもんだろう、と考えたり「案外平気なもんだね」と何度も言ったりしていたんだけど、何度も言うってことはやっぱり平気じゃなかったんでしょうね。

それでも、老夫婦で2人静かに暮らしていくつもりでいたんだけど、あるときカミさんがブイヨンに似た仔犬を探し始めた。何してるんだろう?似ている子を見て懐かしんでるのかな?と思っていたら僕にも写真を見せてくる。見てもしょうがないんだけど、やっぱり可愛いねえ、なんて言っていたらそのうち会いに行くことになった。

カミさんいわく、僕があんまりにも寂しそうで、これはもうダメだと思ったらしい(笑)。だから形式上は、僕のためだということになっているようです。

ブイコは3人きょうだいとして生まれて数ヵ月。ここから20年間生きるとしたら、と自分たちの20年後を改めて考えて、一つだけ、もし自分たちが飼えなくなったときが来ても、絶対に大丈夫なように体制を整えることが必要だと思ったんです。そうしたら、ブイコに会いに行った帰り道に街でばったり娘に会ったの。

そんな偶然が何度か重なったこともあって、娘夫婦に相談してみたんです。「持参金をつけるから」って。そうしたら「持参金なんていらないから、いいよ」と言ってくれて落ち着き先が決まりました。持参金というのはいいアイデアだと思うんですよね。遺言にもちゃんと残して、犬のために後見人を立てるというか。そうして生活に若い命が入ってきて、ブイコとの暮らしが始まりました。

違いも重なりも愛おしい
ブイちゃんとブイちゃん

ブイコという名前は、ブイヨンのブイをもらいました。女の子らしいし、ちっちゃい可愛さがあって気に入っています。この子は、最初の1年くらいかな、引っ越してきて間もない転校生と付き合ってるみたいな感じがあって。同じジャック・ラッセル・テリアでも、ブイヨンと違って耳は垂れているし、ブロークンというタイプなのかな、毛も少し長くて、子役みたいに可愛すぎるというのもあるかもしれない。

でもだんだんと、この子のいろんな表情がお馴染みのものになってくるんだと思います。どこまでが愛おしいという範囲の中にあるか、それが多ければ多いほど「うちの子」になっていくし、可愛さの種類が増えて親しさに重なっていく。ゴミやらホコリやら、そんなものさえ含めて「うちの子」で、欠点や弱点に見える部分だってむしろ備えていてほしいという心の関係が、犬と人の間でもあるんですよね。

面白いのは、ブイヨンがいなくなってブイコに変わったんじゃなくて、ブイヨンもこの子も一緒にいるんです。ブイコの存在がブイヨンの可愛さを新たに見せてくれるし、同じコースを散歩してもこの子はすぐ帰ろうって言うな、ブイヨンはほかの犬が苦手だったけどブイコは犬も猫も人間も大好きなんだな、なんて重なりや違いを発見したりもする。

ブイコの写真と、その何倍もあるブイヨンの写真を一緒に眺めたり、「ほぼ日」のアプリ「ドコノコ」に載せたりするようにもなって、こんなふうな新しい喜びっていうのは、ブイコが来るまで想像もできなかったことでした。

ブイヨンを看取ったのが2018年の3月、ブイコがやってきたのがその年の8月、少し後に生まれた僕の娘の赤ん坊ともブイコは相性が良くて、お互いに好きだというのも嬉しかった。結局僕らは、犬のいない自由より犬と一緒にいる不自由の方がいい。

あえてそれを選んでいるし、旅行でもなんでも、何かができなくなるということさえなんだか嬉しい。なんでも自由になるっていうのは案外つまらないもんだし、実はこの不自由さこそが本当の自由なんだろうな、と思っています。

糸井重里と愛犬ブイコ
お散歩は、行きよりも帰り道が好きなブイコちゃん。もうすぐ2歳になるジャック・ラッセル・テリアの女の子。