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ケジャリー、チキンティッカマサラ。国境を越えて、カレーはおいしくなる vol.1

インドから飛び出したカレーは、アジアはもちろん、海を渡って世界各国の食材と結びつき独自のローカル料理として根づいた。イギリスから日本に渡ったカレー粉がうどんと出会ったように、そのフレーバーは懐深くすべてを包み込んでくれる。国と国を混ぜてもおいしいカレーは世界を平和にしてくれるのだ。

Photo: Kayoko Aoki, Shin-ichi Yokoyama / Text: Yoko Fujimori, Yuko Saito

ケジャリー

英国貴族の朝食となった
カレー風味のリゾット

スパイスは世界を巡る。そして長い歴史の中で現地の食文化に溶け込み、独自の進化を遂げていく。イギリスに伝わるケジャリー(またはケジャリ)という朝食メニューをご存じだろうか?

英国が世界に誇るイングリッシュ・ブレックファストの中でも、ベイクドビーンズなどに比べたら知名度は低いかもしれない。レンズ豆と米を炊いたインドの豆粥“キチュリ”がルーツとされ、インドが英国領だった19世紀後期に広まったといわれている。豆の代わりにパブ料理でもお馴染みのタラの燻製を使い、クリームをたっぷり加えたのがイギリスらしい進化だろう。

20世紀初頭の貴族の一家を描いた人気ドラマシリーズ『ダウントン・アビー』の第1話にも、朝食の準備に追われる厨房で、料理長が「このケジャリーを運んで!」と叫ぶシーンが登場する。タイタニック号の沈没が新聞の1面を飾った、1912年の風景だ。当時まだ稀少だったろうスパイスを使い自国流にアレンジした料理は、さぞやハイカラだったに違いない。教養ある上流階級の朝食として浸透していったのも納得がいく。

英国貴族の朝食となった カレー風味のリゾット。

さて、日本において本格的なケジャリーを出す店は、残念ながらあまり見かけない。ならばと、世界各国の朝ご飯を紹介する専門店〈ワールド・ブレックファスト・ オールデイ〉に、ロンドンのレストラン〈The Wolseley〉のレシピを再現していただいた。朝食のおいしさに定評がある人気店で、ケジャリーも多くのファンを持つ名物料理の一つ。

ピラフのようなドライタイプもあるが、こちらのレシピは汁気のあるウェットタイプ。黄金色のリゾットの上に軟らかなポーチドエッグがそっと置かれ、そこからとろりと黄身が流れ出す美しさときたら……。
ロンドンにあまた存在するケジャリーの中でも、気品あふれる一品だ。

作り方は、ターメリックライスにカレーパウダーやクミンシード、ニンニク、ショウガ、そしてたっぷりのクリームで作ったソースをかけ、ほぐした燻製タラを加えてひと煮立ち。「オリジナルのソースはクリームがかなり多いので微調整し、スパイスを際立たせてみました」と代表の木村顕さん。

なるほど、程よくスパイシーなリゾットに燻製タラが実にいいだしの働きをして、これは日本人好みの味。大英帝国の栄華の時代に生まれたカレー料理は日本で流行するポテンシャルを秘めているかも⁉ 何より、こんなエレガントな朝カレーなんて最高じゃないですか。

チキンティッカマサラ

インド伝統料理のコラボは
実は、イギリス生まれ

チキンティッカは、ヨーグルトとスパイスでマリネした鶏肉を窯で焼いた、インド料理の代表選手。チキンマサラ(カレー)もまた、しかり。が、2つがコラボしたチキンティッカマサラとなると、話は別。実は、“カレーは好きだけど、チキンティッカはパサついた食感がな~”というイギリス人のために英国のインド料理店が始めたとされる。

「チキンティッカの味はどこも、そんなに変わらない。どんなマサラと合わせるかが勝負です」と言うのは、これが名物の老舗〈SURYA〉のバンダリさん。どんなマサラかといえば、チキンティッカと一緒に、酢豚ばりに大きなタマネギとピーマンを投入。ケチャップで味を決め、ネギを散らした、日本までコラボさせた超個性派。

ポークビンダルー

ポルトガルとインドが合体した
ゴア名物の酸っぱいカレー

長い間、ポルトガル領だったインドのゴア州。かの地の名物として知られるポークビンダルーも、そのポルトガル人からもたらされたものだそう。

元ネタは、カルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョシュというビネガー漬けの豚肉煮込み。ゆえに、タマリンドとは違う、ビネガーによるパンチが効いた酸味と辛味が特徴だ。これに興味を引かれたのが、カレー好きのポルトガル料理人、佐藤幸二さん。以来、ポルトガルで、日本で食べまくったものの、なかなか好みの味に出会えない。

ならばと、自らレシピを考案。それが〈ポークビンダルー食べる副大統領〉のポークビンダルー。豚肉を漬け込む酢は、ワインビネガーではなく、あえて米酢。酸味より甘味や旨味を引き出すビネガー使いが、佐藤流だ。