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〈ライオンシェア〉〈SPICY CURRY 魯珈〉〈カレーノトリコ〉〈SANRASA〉進化するドライ&ウェットの合いがけカレー8選〜前編〜

世界一のカレー・ダイバーシティを誇る東京。ところが最近似たようなカレーも増え飽和状態となりつつある。ならばと新しい可能性を探れば、ドライ&ウェットの法則に行き着く。なぜか。店主の個性と“混ぜる意図”がよりハッキリと伝わるから。

Photo: Susumu Takahashi / Text: カレー細胞

なぜドライ&ウェットなのか。

理由1

ルールを作るとカレーは冒険できる。

一度「その1」のルールさえ作れば一皿に異なるジャンルの2品を“共存”させる懐の深さと、混ぜ合わせれば新たなカレーが生まれるほどの説得力が得られる。例えばの〈魯珈〉なら、魯肉飯×カレーの合いがけという“異色の定番性”が店のブランディングになり、唯一無二の存在感を放つことに成功している。

理由2

他ジャンルを一皿に取り込む包容力。

ドライは食感を生み出すのが得意だが周りに味を浸透させることは苦手。一方ウェット同士では混ざりすぎて均一化してしまう。互いの利点をルール化するなら、例えばこう。甘いドライを店の名物として固定する。一方でウェットの味や辛さを選べるようにする。これだけで混ぜて楽しく、食べ飽きないカレーになるのだ。

理由3

機能的なデザインを楽しむ

デザイン性が高いドライ&ウェットの元祖といえば90年代の〈パク森〉が挙げられる。高低差、彩り、配置、分量、盛り付けで、味を棲み分けたり、ワザと混ざりやすくもできる。機能がビジュアルへと直結するか
ら店主の思惑を読み取りやすい。食べながらそんなことに思いを巡らせていたら、既に上級者の仲間入りだ。

ライオンシェア(代々木)

鶏キーマの旨味を嚙み締めたら
カレーを注ぎ入れ、モモ肉をほぐし混ぜる
チキン同士の共演を楽しむ

インド料理好きに愛された松本〈シュプラ〉(現在は閉店)で修業、その味を受け継いだ貴重なカレー店。ドライキーマのせライスにウェットカレーを別皿で組み合わせたセットが名物だ。ライスは三分づき玄米、パラッパラの鶏肉キーマと一緒に噛み締めれば肉の旨味がギュッと溢れ出す。

トッピングのアチャールやショウガ、刻み野菜を混ぜ合わせ食感の変化を楽しんだら、いよいよウェットとの顔合わせ。上からスパイシーなカレーを注げばキーマはしっとりと味変。さらに2時間半じっくり煮込んだホロホロの鶏肉も、崩しながら混ぜればさらなる旨味が溢れ出し……まさに変幻自在である。

ドライキーマカレー+ほうれん草のチキンカレー
Aセット(ドライキーマカレー+ほうれん草のチキンカレー)¥1,250。

この独特なドライ&ウェットスタイルが生まれたのは〈シュプラ〉のさらに前身となる〈山猫軒〉。別メニューだったドライとチキンのカレーを合わせて食べるのが常連さんの間で流行ったのがきっかけだそう。〈ライオンシェア〉がオープンした2004年頃は、まだカレーを混ぜることに戸惑う客も多かった。ここ数年でようやく時代が追いついてきたようだ。

ドライキーマとアチャール
まず玄米にドライキーマとアチャール、ショウガ、刻み野菜をグシャグシャ混ぜていただく。次にウェットカレーと鶏肉で自在に味変しよう。

SPICY CURRY 魯珈(大久保)

絶対的な軸がカレーの世界を広げる
スパイス名人の実験を支える哲学とは

「一度ドライ&ウェットの面白さを知ると、その世界から抜け出せなくなるほど懐が広い」と語るのは〈魯珈〉の店主、齋藤絵理。スパイシーなカレーと台湾の甘辛い魯肉飯が織り成す意外な旨さがSNSで話題となり、瞬く間に東京を代表する繁盛店に。

「米に合う料理という共通項が鍵。ライスと魯肉飯を定位置に置けばどんなカレーでも組み合わせられるんです」と語るだけに、南インドカレーに欧風カレー、タイカレー、麻婆カレーと、どんな意外な組み合わせでも〈魯珈〉のカレーにしてしまう縦横無尽ぶりだ。

基本となるチキンカレーもあるが、それすらも年々インド料理のレシピから離れ独自進化している。スパイスの名人といわれる齋藤こそが成し得るワザともいえるが、ウェットなカレーと混ぜてもドライな魯肉飯の存在感は残り続けるというのが大発見だった。互いの役割を尊重しつつ良さを引き出し合う新たな共存関係は、しっかりとした軸足から次々と生み出され、今日も行列客の舌を唸らせる。

ろかプレート
ろかプレート¥1,050
まずは魯肉飯とカレーを混ぜず交互に味わおう。それぞれの味わいを堪能したら今度はスプーンで魯肉をカレーに崩し落としながらいただく。甘辛とスパイシーさのバランスを好みで調節しつつ食べ進めるのが楽しい。

カレーノトリコ(神田)

サラサラと中毒性のあるスープと
食べ応え十分の具材のハーモニー

自らを「気難しいクソ店主」として称してはばからない田邉周平は、欧風カレーの名店〈ボンディ〉、インド風カレーの名店〈エチオピア〉の両方で修業した経歴を持つ。だが、ここのカレーは欧風でもインド風でもない完全なるオリジナル。どのカレー店とも似ていない孤高の美学がある。

スープ状のカレーは和風だしの旨味を巧みに利用、白米と合わせればスパイシーな茶漬けのようで、夢中でサラサラ掻き込んでしまう中毒性がある。振りかけたカスリメティのムワッとした香りも食欲をそそる。また、驚くべきはゴロゴロと塊で入った鶏肉のボリュームだ。「チキンカレー頼んでチキン少なかったら悲しいでしょ?」という店主の強い思いが込められているという。

一方のドライカレーは名店〈ハイチ〉に着想を得ながらも、コンニャクを加えギュッと弾力ある食感に仕上げたオリジナル。オリジナルな味を追求することに妥協を許さないという“気難しさ”と、器や盛り付けへの細かな配慮が嬉しい極上の一皿だ。

あいがけカレー
あいがけカレー¥1,400
白米にカレーがかかっていない部分を残しているのは、いきなり混ぜず別々に食べてほしいという店主のこだわり。まずはドライとウェットを別々にいただくのがオススメだ。混ぜるときはスプーンにすくって少しずつ。

SANRASA(東新宿)

いろんな味を試してほしいから
定食のフォーマットでスパイスを遊ぶ

ゴールデン街の間借りからスタート、今や売り切れ御免の超人気カレー店だが「ほんとは定食屋をやりたかった」と店主の有澤まりこは語る。ドライキーマを主軸にウェットカレー、副菜とサラダを盛り合わせた日替わりプレートは、“混ぜる”を前提としたインド現地料理。

本場なら味を引き算して食べ飽きないプレートに仕立てるが、日本人相手なら混ぜても混ぜなくてもおいしい、ギリギリのキワを狙うべきだと考えた。食べ方をお客さんが自由に決められるチューニングなのだ。食材の置き換えも特徴的で、インドのカレーリーフではなく、あえてタイのバイマックル(同じ柑橘系)を使ったり、副菜にインドと全く関係ないモノをのせたり。

あくまで日常食でありたいという思いから日本米を選び、スパイスで炊いて色と香りを添える。そのスパイスだって漢方みたいなもの。とりすぎると体に良くないからと適量を心がける。客の健康を考えて作られた、毎日でも食べられる嬉しい料理なのだ。

あいがけ
あいがけ¥1,300
ドライなものと汁物、ご飯、副菜、サラダ。プレートの構成はまさに「定食」。単品ごとの味を確認したら、あとは食べ方自由である。サラダのドレッシングまで全部混ぜてもおいしいように設計されているのだから。