冒険のためのウェアとギア図鑑

どんな冒険も「無謀だ」と言わせないために、優れた装備品がある。陸海空のさまざまな環境下で一歩踏み出す勇気を与えるギアとウェア。時に、安全に帰路に就く支えとなる。

illustration: Yoshimi Hatori / text: Keiichiro Miyata / special thanks: Ryota Nomura,Yasunaga Ogita,Shinichi Ito,SDI TDI Stingray Japan,HELLY HANSEN,finetrack

UNDERSEA(海中)

想定外を想定して、バックアップ器材を常に装備

地球の表面の約7割を占める海は謎多き場所。人類未踏の海底や沈没船にロマンを抱くダイバーは多い。ただ水深40mより深く潜るには特別なライセンスが必要だ。空気がなく太陽光も届かない海中での活動は、ライトを落としたり、シリンダーが故障したりしたときに予備に切り替えるバックアップが必須。

呼吸ガスはシリンダーの3分の1を残し浮上できるようマネジメント。時に呼吸ガスを再利用できる装置「リブリーザー」を背負い潜る。低水温期は体が濡れないドライスーツを纏(まと)い、潜水可能時間を算出するダイブコンピューターは両腕に着用。ヒューマンエラーをゼロにする準備を怠らない。

UNDERSEAの装備

ALPINE(高山)

ウェア、食料、ボンベ。装備の軽量化が進む

限界を目指す者にとって高山は格好の目標。己の体力と精神を試すように、未知の体験への探究心が冒険家を突き動かす。例えばヒマラヤなどの標高8,000m超の地点は“デスゾーン”と言われ、気温は約マイナス30℃。強風が吹き荒れ、雪崩や低体温症といった危険が常に潜む。

身を守る術(すべ)は第一に完璧なレイヤリング。高機能ウェアを何層も重ね、冷気、風、雪をシャットアウトし、最後に大容量のダウンが詰まったウェアを上下に纏い保温。凍傷になりやすい手先はダウンミトンで包み、足先はアウターとインナーに分かれた防寒ブーツにアイゼンを装備し、氷河の上を進む。

気圧の低い山頂付近は1回の呼吸で体内に送り込める酸素量が3分の1以下になるため、酸素ボンベを背負い行動。少しでも体の自由が利くよう全装備と携帯する食料の軽量化が今も進められる。

POLAR REGIONS(極地)

防寒と汗冷え対策を怠ると、命取り

観測史上最も寒いマイナス98℃を記録したこともある南極。北極も冬季の平均気温はマイナス25℃を下回る。防寒対策は当然だが、荷物を載せたそりを引き挑むような単独徒歩での冒険は汗もかく。この汗冷え対策が厄介。

極寒では着替えるわけにいかず、汗はすぐ凍る。防ぐには、保温とクールダウンを兼ね備え、冷気を遮断し透湿するレイヤリングが肝。メリノウールなどのインナーを着用し、ミッドレイヤー、断熱レイヤー、防風レイヤー、ダウンジャケットの順に重ねる。氷点下では雪が解けないため極地で防水対策は不要。冒険家の中には、吸汗重視でコットンのダウンジャケットで挑む者も。

POLAR REGIONSの装備

CAVE(洞窟)

とにかく強靱で、防水、速乾、伸縮性も兼備

光り輝く鍾乳洞や溶岩の中にできた火山洞窟など、大地の奥深くには自然が作り上げた神秘が広がっている。絶景までの道のりは、人がやっと通れる隙間をくぐり抜けることの連続。文字通り、衣類が足を引っ張らないよう、上下が一体のツナギで身を包み、道なき道を進む。

日光が届かない暗闇の洞窟は湿度90%以上がほとんどだ。汗で服が濡れても焚(た)き火はできず、体温で乾かすのが精いっぱい。そのためインナーは汗抜けが良く、常に肌をドライに保つものが選ばれる。近年では日本の〈ファイントラック〉による、特注で作られる、防水、速乾、伸縮性を備えたツナギが冒険の支えとなっている。

CAVEの装備

SAILING(セーリング)

風雨、波しぶきから身を守る高い防水性

単独での海の旅。中でも、風と波、潮の力だけで船を走らせる世界1周ヨットレースは過酷さを極める。期間は約90日間。常に天候の変化に備え、波しぶきや風雨が吹き荒れるデッキでも足を取られないグリップ力の高いシューズを履き、安全のために発見されやすくなるリフレクターを配した防水ウェアを上下で着用。

ジャケットは南氷洋などの極寒に備えたハイネック仕様で、首元に収納されたフードはヘルメットの上から被れて、ワイヤー入りの縁は自由に形を変えられ視界良好。生地は膝や腰を下ろした作業を繰り返しても穴が開かないよう堅牢で、お尻、膝などの要所はパッドで補強されている。

SAILINGの装備

DOWNHILL(ダウンヒル)

安全装備を纏(まと)い恐怖心を克服する

専用にカスタムしたマウンテンバイクにまたがり、山や丘などのトレイルを一気に駆け下りるエクストリームスポーツの一種。トップライダーは、大きな岩や砂利が剥き出しの急斜面を時速60km超で走行するため、転倒は大ケガに直結する。

操作性の高いマシンは、軽量で剛性の高いカーボン製のフレームで、極めてラフな路面に対応できるサスペンションと、高速域でも制動できるパワフルなブレーキが備わっている。万が一に備え、胸、膝、肘など全身を防護するプロテクターと頭部を守るフルフェイスヘルメットは必須。一瞬でも視界が遮られないよう、虫や塵から目を保護するゴーグルも欠かせない。

DOWNHILLの装備

CLIMBING(クライミング)

最低限の装備で手足の感覚を研ぎ澄ます

命綱となるロープや安全装置といった最低限の装備で、地上数百mもの断崖絶壁を自分の手足のみで登るクライミング。手には滑り止めのチョークをつけ、足は靴底から側面までラバーで覆われたクライミングシューズを履き、岩肌をしっかりと捉えて登っていく。

一見、普段着のような服装だが、そこにも長時間の活動で体力が奪われない工夫がある。機能性Tシャツは糸一本まで軽量化され、“限りなく裸に近い”着心地で、立体的なクライミングパンツは壁にしがみついている中腰の姿勢が楽なパターンメイキング。どちらも生地が岩肌に引っかかることがないように滑りのいい素材が採用される。

CLIMBINGの装備

WINGSUIT FLYING(ウィングスーツフライング)

空気の詰まった“着るパラシュート”で空を飛ぶ

建造物や断崖からパラシュートを使い降下するベースジャンプや航空機からのスカイダイビングに、“着るパラシュート”といわれるウィングスーツで挑む者がいる。

第一人者はスカイダイバーのパトリック・ド・ガヤルドン。1990年代、体全体を翼のようにして飛行するウィングスーツを自作し滑空した、超人にして、鳥人。パトリックが考案した、落下すると同時に脇下と足首にある通気孔から空気が流れ込みスーツ全体が膨らむ構造は今も変わっていない。

垂直方向の自由落下を水平方向の滑空に転換し、体や首の向きを少し傾けることで進行方向やスピードを自在にコントロールできる。安全に着地するため背中にはパラシュートを装備。肩から脇の下に広がる翼は小さいほど軽快に飛ぶことができ、最高飛行速度は時速360km以上に達する。

WINGSUIT FLYINGの装備

RALLY RAID(ラリーレイド)

もしもの事態に備え、耐火炎素材で体を覆う

地球上のあらゆるフィールドを走破するラリーレイド。中でも最も過酷といわれるダカール・ラリーは灼熱の砂漠や岩場の連なる山岳地帯を駆け抜け、総走行距離1万kmにも及ぶ道程を2週間かけて激走する。

暑くても半袖になるわけにはいかず、もしもの火災発生に備えて、ドライビングスーツ、シューズ、グローブは耐火炎製。頭頸部を保護するヘルメットはクルー間で通話するマイクとスピーカーを内蔵。自力で脱出できない緊急時は、誰かに車外から引っ張り出してもらえるよう肩はフラップ付き。ドライバーの中には、運転姿勢のままペンを取り出せるよう足首部分にポケットを特注する者もいる。

SHARE ON

FEATURED MOVIES
おすすめ動画

BRUTUS
OFFICIAL SNS
ブルータス公式SNS

FEATURED MOVIES
おすすめ動画