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シネマコンシェルジュの映画監督論:山崎まどか「都市と恋愛と若者を撮るのが上手な監督にグッとくる。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

映画好き山崎まどかへ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

山崎まどか

ウェス・アンダーソン監督の『天才マックスの世界』より、主人公が掛け持ちしている全部活のコラージュ・シーン。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

山崎まどか

ホイット・スティルマン監督の『メトロポリタン ニューヨークの恋人たち』。アメリカの上流階級の世界を完璧に、半径100mくらいの自分の生活圏として描いています。フィッツジェラルド的でプルースト的。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

山崎まどか

デヴィッド・フィンチャー監督の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』。監督のせいではなく、多分、というか全面的にエリック・ロスの脚色のせい。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

山崎まどか

現役で活躍している監督に絞ると、作品によって好きになったり嫌いになったり、評価が安定しない人は何人もいます。例えばグザヴィエ・ドランはその一人。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

山崎まどか

グレタ・ガーウィグが『若草物語』を映画化した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を観て、ぜひレナ・ダナムにも少女小説の古典で映画の世界にカムバックしてほしいと思いました。『続あしながおじさん』はどうでしょう。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

山崎まどか

2010年代を通してずっと不遇だったリチャード・ケリー監督。「本当はクリストファー・ノーランと同等の才能がある」というケヴィン・スミスの言葉に賛成。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

山崎まどか

エリザ・ヒットマン、ソフィア・ボグダノヴィッツ。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
リチャード・ケリーの『運命のボタン』

隠れた俊英が生んだ、流石の一本。

リチャード・ケリーは2010年代に一本も映画を撮っていない。これは米本国で2009年末公開の最新作。リチャード・マシスンの有名な原作はシンプルだ。

謎の男がお金に困っている夫婦のもとに現れて、ボタンのついた装置を渡す。ボタンを押したら100万ドルが贈呈されるが、見知らぬ誰かが命を落とすこととなる。オチは見えているが、ケリーはこの小噺から宇宙の真理を読み解こうとする。つまり「誰が」「何のために」この装置を作り人間のモラルを試そうとするのかという構造を考え、それを自身が若い時に感じた漠然とした不安に対する解答として提示しようとするのである。

そして主人公の夫婦と自分の父母を重ねた結果、原作から乖離し、夢破れた者たちがいかに運命の不条理に対峙するかという物語になっていく。サバービアのグロテスクな秘密と中二的な妄想を強引かつ魅惑的な符号の羅列によって結びつけ、力技でねじ伏せる『ドニー・ダーコ』以来の作風は健在。境界線が水のように崩れていく表現や、ほかではあり得ないような選曲など、雇われ仕事なのにこれでもかとケリー節を入れ込んできて、流石だと思わせる。