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シネマコンシェルジュの映画監督論:宇野維正「口癖は“映画は撮影と編集と劇伴”。三拍子揃った監督を評価」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好き宇野維正へ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

宇野維正

デヴィッド・ロウリー監督『さらば愛しきアウトロー』のオープニング。銀行から逃走する主人公の車をカメラが追うと思いきや、壁のペンキ塗りをする少女と少年を捉え、その壁の裏から車がまた現れるワンカットのシーン。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

宇野維正

スティーヴン・ソダーバーグ監督『イギリスから来た男』。超絶ショット&モンタージュの嵐。柄にもなく素直な映画愛の表出。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

宇野維正

『パンチドランク・ラブ』。ポール・トーマス・アンダーソン監督のような天才がボンクラ設定の主人公の作品を撮る理由が、公開当時は自分が未熟でわかりませんでした。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

宇野維正

今年の『劇場』と『窮鼠はチーズの夢を見る』で、行定勲監督の新作は毎作観ようと思いました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

宇野維正

すべての監督に一度はホラーを撮ってほしい。特に向いてそうなのは、海外ではベネット・ミラー、日本では石川慶。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

宇野維正

ドラマ版『ガールフレンド・エクスペリエンス』のショーランナーを30代前半で務め、『アトランタ』でヒロ・ムライ&ドナルド・グローヴァーから演出を任されたエイミー・サイメッツ監督。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

宇野維正

アートハウス系では『コロンバス』のコゴナダ、エンターテインメント系では『サバハ』のチャン・ジェヒョン。2020年代は、韓国系/韓国人監督がますます世界を沸かせる予感がします。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの『ボーダーライン』


奇跡の4人が揃った、10年後の「クラシック」。

映画は監督のものですが、それと同時に映画は撮影と編集と劇伴です。だから、それぞれの職種の組合がうるさいのに自分で撮影や編集もしちゃうソダーバーグのような監督もいるし、自分で劇伴を作っちゃうジョン・カーペンターのような監督もいるわけです。

近年、撮影と編集と劇伴がすべて完璧にキマっていた作品といえばヴィルヌーヴの『ボーダーライン』でしょう。ロジャー・ディーキンスの撮影がバキバキなのは当然として、本作のヨハン・ヨハンソン(亡くなってしまいましたが)の劇伴がその後どれだけパクられてきたことか。

それは、もちろんヨハンソンの音楽家としてのすごさでもあるのですが、それだけあの撮影と編集と劇伴の奇跡的なハマりっぷり(特にメキシコ・フアレスの空撮シーン)に強烈なインパクトがあったということ。加えて、本作はテイラー・シェリダンという今後数十年のアメリカ映画を背負っていくであろう脚本家の評価を決定づけ、彼の監督デビューの足がかりにもなりました。現時点でも十分に評価されている作品ですが、10年後にはさらにその真価が明らかになっているでしょう。

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