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シネマコンシェルジュの映画監督論:ミヤザキタケル「監督本人の中から生み出された、純度の高い映画を求める。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好きミヤザキタケルへ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

ミヤザキタケル

ヤン・イクチュン監督の『息もできない』の全シーン。監督・製作・脚本・主演・編集を兼任し、家族や友人に金を借り、家を手放してまで完成にこぎ着けた思い、執念、魂が作品に宿っている。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

ミヤザキタケル

名監督ポール・トーマス・アンダーソン。150分前後のシリアスな作品が多い中、全編95分の恋愛もの『パンチドランク・ラブ』でもカンヌを獲れちゃうセンスと作品の振れ幅にただただ脱帽。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

ミヤザキタケル

今泉力哉監督の『愛がなんだ』。ご本人がメインで脚本を書かれていない作品に限ってはハマれていません。監督が紡ぎ出す物語や不器用な人たちが大好きです。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

ミヤザキタケル

テリー・ギリアム監督。独特の世界観ゆえに好みが分かれる監督ですが、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』を観て、初めて彼の世界観に入り込めました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

ミヤザキタケル

いま一度、行定勲監督が脚本・監督されたオリジナル作品を観たい。行定勲という男が紡ぎ出す物語や人間に興味があります。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

ミヤザキタケル

『どこへも行けない僕たち』の松本窓監督。あまたの制約が伴うリモート映画において、あれだけのクオリティを発揮する彼の今後の作品がとても楽しみです。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

ミヤザキタケル

松本窓、山口優衣、橋本根大、山中瑶子、岩切一空、枝優花、ふくだももこ、塚田万理奈など。若き監督たちの今後の作品が楽しみでなりません。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
行定勲の『劇場』

作品への圧倒的な熱量が生んだ、映画史に残る作品。

行定勲監督の代表作は、昔から『GO』だと思っていた。だが、それに匹敵するだけの圧倒的純度と熱量を宿し、今後ともに代表作に名を連ねていくであろうド名作が今年誕生した。

監督自ら映画化を熱望した芥川賞作家・ピース又吉直樹の恋愛小説を原作に、どうしようもない男女の恋模様、理想と現実の狭間でもがき苦しむさま、手遅れになってからでないと気がつけない大切なことなど、誰もが青春時代に通るであろう葛藤の数々を、痛々しくも愛おしく映し出す。

かつて夢を追いかけた者なら、かつて夢を手放した者なら、叶わぬ夢を叶えようと今も足掻き続けている者なら、思い当たる節が多すぎて、きっと胸抉られるに違いない。コロナの影響で公開延期の憂き目に遭いながらも、より多くの人々へ作品を届けるべく、劇場公開とサブスクでの配信を同時に行うという前代未聞の機転を利かせた行定監督たちの英断には尊敬の念を抱かざるを得ない。

作品としてのクオリティの高さはもちろんのこと、上映形式においても、2020年の日本映画史に刻まれるべき一本であると僕は思う。

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